大震災と国会議員の責務 (『金融財政ビジネス』2011.3.24号)
今年の通常国会は、国民の生活を守り、向上させるために、どれだけのことをしてきたのであろうか。
与党民主党は、小沢排除の権力闘争に夢中で、政策は役人への丸投げが増え、「国民の生活が第一」というマニフェストの原点から無原則に離れて行くように見える。野党自民・公明党は、日本をどのように良くするかという政策論争を挑まず、予算関連法案の修正協議にも応じず、閣僚のアラ捜しで倒閣、解散に追い込むことに狂奔している。このため、国民の与党支持率は下がり、野党支持率も上がらず、支持なし層ばかりが増えて、過半数に達している。
この情けない国会が、国民の生命、財産を守るという本来の使命を思い出したとすれば、今回の東日本大震災は大変不幸な出来事ではあるが、奇貨と言うべきであろうか。政府・与党提出の震災対策補正予算の成立に、野党は「救国のため」協力すると言っている。
しかし、現在の日本には、「挙党・救国」で臨むべき課題は、ほかにも山積している。それを認識せず、与野党は政争に明け暮れしてきた。
11年度予算案は本年度内に成立することが決まっているが、予算関連法案の参議院可決、あるいは否決された場合の衆議院の3分の2の再可決、の見通しが立っていない。倒閣に夢中の参議院野党は、菅首相では修正の話し合いに応じて修正可決に回ることはないと言っている。権力闘争に夢中の衆議院民主党では、16人の会派離脱希望者が現れ、3分の2の確保は絶望的だ。
しかし、今回の大震災の被災者の生命、財産と先行き不安に脅える一般国民の生活を守るためには、予算関連法案の修正可決の道を探るのが、国会議員の責務ではないのか。
予算関連法案のうち公債特例法案が通らないと、税収と20兆円の政府短期証券枠で金繰りをつけられる限界が6月にくるので、今回の被災者の救援を含む政府の機能が止まってしまう。その前にも国債の下落=長期金利の上昇が起こり、景気の先行き不安が国民生活を脅かす。
税制改正法案が通らないと、中小企業の法人税率優遇など日切れ法案による多くの租税軽減措置が失効し、増税による食料品、運賃などの値上げりが国民生活を圧迫する。つなぎ法案で泳ぐとしても、不安感はつきまとう。また、法人実効税率の引き下げなど11年度税制改正の本体の成否が見通せず、企業の経営計画は戸惑わざるをえない。
更に子供手当法案や地方交付税改正法案が通られないと、子育て家計の生活設計や地方自治体の本年度財政計画が不確かになる。
これらは総て日本経済に悪影響を及ぼすが、昨年10〜12月期の足踏み状態を脱して年明け後回復軌道に乗ってきた日本経済が、いま更に三つのリスクに直面している。一つは、政策決定を棚上げし、政争に明け暮れする政治の下で、新成長戦略やTPP参加の是非など中期的課題の議論が進まず、企業の中期経営戦略の策定が決まらないことだ。
二つ目は、いうまでもなく今回の大震災による生産、流通、支出活動のダメージだ。
最後に中東の騒乱に伴う原油価格の高騰がある。最近の資源・食糧価格の上昇傾向がこれで強まり、輸入価格の高騰でコスト・プッシュ型の物価上昇となろう。企業収益は圧迫され、それを販売価格に転嫁すると国民の実質購買力が低下する。コア消費者物価の前年比は2月にマイナス0・2%まで縮小しているので、これでデフレは解消するが、景気にはマイナスだ。マクロ的に見れば、輸入価格が輸出物価を大きく上回って上昇し、交易条件の悪化によって日本の所得が海外に奪われる。
三つとも国会が「挙党・救国」で取り組むべき重要な課題であることを、与野党の議員は自覚して欲しい。