民主議連は何を目指すのか (『金融財政ビジネス』2010.9.16号)

  現在民主党内には、若い国会議員を中心に、デフレ脱却の議員連盟と財政再建の議員連盟が活動している。前者は日銀法を改正し、日銀にインフレ・ターゲットを義務付け、未達成の時には総裁を罷免すべきだという議論まで出ているようだ。後者は消費税率引き上げを含む財政再建の計画を決め、今から実行すべきだという議論をしているらしい。
  デフレ脱却も財政再建も、中期的には大切な政策目標であり、それらを真面目に議論している若い議員の活動を評価したい。しかし、デフレも財政赤字も、日本経済全体のメカニズムの中で起こっており、しかもその経済は景気循環をする。従って、デフレと財政赤字を循環変動する日本経済の全体像の中でとらえ、それらを解決する中期的な工程表を、景気対策という短期目標と矛盾しない形で作らなければならない。そうしないと、短兵急なデフレ脱却策や財政再建策が、将来の日本経済の効率悪化を招き、成長のポテンシャルを下げ、デフレと財政赤字を逆に拡大再生産することにもなり兼ねない。
  いますぐデフレ脱却と財政赤字縮小に踏み出そうという二つの議員連盟の考え方を合わせると、「財政緊縮・金融超緩和」のポリシー・ミックスになる。その効果は、マンデル・フレミング・モデルを引用する迄もなく、金融超緩和による円安と、緊縮財政に伴う内需停滞が生み出す輸出圧力によって、輸出主導型成長となる。
  これは小泉政権が採ったポリシー・ミックスと同じである。その結果、02〜07年度の戦後最長景気となり、7年間に輸出は76・0%成長して実質GDPを12・1%成長させた(寄与率65・5%)。しかし、名目雇用者報酬は、この7年間に逆に1・8%低下し、バブル景気のピークを上回った企業の売上高経常利益率との間に大きな格差が生じた。
  「国民の生活が第一」というスローガンでこの格差を批判したからこそ、民主党は政権交代ができたのではないのか。その民主党が、小泉政権のポリシー・ミックスに戻ろうとするのか。
  財政再建最優先に転じたEUと米国が現在採っているポリシー・ミックスもこの型だ。その結果、ユーロ安とドル安が生じ、その反映で円高となっている。円高を反転させる市場介入は、米欧と協調しなければ効果はないが、この円高は輸出主導型回復という米欧の経済戦略の結果であり、彼等に好ましいことであるから、協調する筈がない。
  ここで日本が同じ型のポリシー・ミックスを採れば、世界大恐慌時と同じ主要国間の通貨切り下げ競争になり、どこの国の通貨も切り下がらず、輸出も伸びず、内需停滞だけが残って世界同時不況となろう。民主議連はそれが分かっているのか。
  急激な円高は、断固市場介入で阻止すべきであるが、協調介入なしの一国介入では、その効果は一時的である。しかしその結果残る円高トレンドは、日本に有利である。
  海外の優良企業や資源はM&Aで買収し易くなる。工場の海外移転のコストも下がる。その結果海外からの所得純受取が増え、実質国民総所得(GNI)が増える。国民の購買力も高まる。交易条件は好転し、実質国内総所得(GDI)が増える。
  これからは、製造業の比重が新興国・途上国で上がり、先進国では下がるであろう。日本の製造業は円高を利して、積極的に海外にシフトすべきである。これによって雇用の空洞化が生じないように、民主党は情報通信、電力、エネルギー、環境、教育、医療、介護、育児などの新成長戦略産業への民間参入を、規制緩和で大いに促進すべきである。日本銀行のこれら分野への低利リファイナンスは時宜を得た新政策だ。当面の対策と来年度予算で、この分野への財政支出を惜しむべきではない。