総選挙の教訓 (『金融財政ビジネス』2009.9.17号)

  総選挙の結果は、民主党の圧勝、自民党の惨敗に終わった。総選挙直後の朝日新聞の世論調査によると、民主党を中心に政権交代が起きることは「よかった」という人が69%、民主党中心の新政権に「期待する」という人が74%に達しており、多くの国民が政権交代を待ち望んでいたことが分かる。
  ところが驚いたことには、このような政権交代をもたらした民主党の大勝は、「国民が政権交代を望んだことが大きな理由」(回答81%)であって、国民が民主党の政策を支持したからだとは「思わない」人が52%と過半に達し、「思う」人の38%を上回っている。実際、民主党の目玉政策である「子供手当」に対して、賛成は31%、反対は49%、「高速道路料金の段階的無料化」については、賛成20%、反対65%である。
  このように、国民の多数が民主党の政策には必ずしも賛成ではないのに、政権交代を望んだということは、国民が自民党を政権与党の座からパージしたいと考えたからである。
  政権交代がごく普通に起きる議会制民主主義の国では、通常総選挙に際して、与党は政権の「実績」を訴え、野党は新しい「政策」で国の路線を転換したいと訴える。
  ところが自民党の麻生総裁は、与党の武器である筈の過去の「実績」を棚上げして、野党と一緒に将来の「政策」で争った。自民党の方が「政策力」や「責任力」があると訴えたのだ。
  しかし、国民が自民党を罰したのは過去の「実績」の故であり、将来の「政策」を比較して投票先を決めた訳ではない。民主党は「政策」に対する支持が少ないのに勝ったことで、それが分かる。
  戦後最長景気の最終年、07年になっても、雇用者報酬は01年以前に戻っていない。08年以降は、世界同時不況に翻弄されて、賃下げと失業の恐怖におびえている。このような時に、自民党は総理・総裁を3回もころころ変えた。「政策力」や「責任力」を訴えられても、国民には「ブラック・ヒューモア」としか聞こえなかった。
  民主党はこの国民の不満を受け止め、「国民の生活が第一」と訴えて大勝した。「敵失」による大量得点のようなものだ。だから民主党は、国民から包括委任を受けたような気になったら、終わりである。国民は自民党を罰するために民主党に投票したのであって、民主党の政策を全面的に支持した訳ではないからだ。
  民主党政権は、今後100日間に、何かをやれるのだという安定感を国民に示す必要があろう。それには、既に計画している09年度補正予算の組み替え、10年度予算の枠組み作り、新しい政治主導の官邸組織・行政組織の機能度の実証、対米・対アジアの外交上の成果などで、国民が安心し期待できるような実績を挙げることだ。
  その上で、来年以降、与党として誇れる「実績」を四年間積み重ね、国民の支持する状況を民主党の政策によって本当に作り上げなければならない。そうでなければ、次の総選挙に大きな揺り戻しが来るであろう。
  その場合、マニフェストに示した細かい政策を律儀に実現しようとするよりも、国民生活の窮乏を救う骨太の計画をマニフェストの政策の中から作り、それを実現した方が分かり易い。@出産、育児、教育、雇用、年金、医療、介護など人生のライフステージ毎に機会均等と安全ネットを完備する計画、Aクリーンな代替エネルギーの開発と普及、エネルギー効率の向上と低炭素化設備への切り換えなど温暖化対策と新産業育成の計画、B新興国・途上国の産業化と環境エネルギー投資を支援して内需主導型成長を後押しし、アジアと共に発展する計画、などは新しい日本経済の進路を示す計画として、分かり易い。