小沢代表の辞任に思う (『金融財政ビジネス』2009.6.15号)

  民主党の小沢代表が辞任し、鳩山新代表(前幹事長)が選出された。大久保秘書の政治資金規正法違反容疑によって、小沢前代表自身と民主党に対する国民の支持率が下がってきたための辞任である。
  小沢代表の公設第一秘書、大久保隆規氏の起訴事実が、政治資金規正法の「虚偽記載」だけであることを、多くの国民は知っているであろう。
  大久保氏は、寄付行為者である二つの実在する政治資金管理団体(新政治研、未来研)の名前を記したのに対して、検察側はその金の出所は西松建設なので、西松建設と書かなかったのは「虚偽記載」だとして起訴した。
  しかし、政治資金規正法は、政治献金の「寄付行為者」を収支報告書に記載せよと書いてあるだけで、「資金の拠出者」を書けとは書いてない。「寄付行為者」の背後関係を調べて「資金の拠出者」が誰かを書かなくても、違反ではないのだ。従って大久保氏は「虚偽記載」を認めず、無罪を主張している。この認識の違いは、裁判で最後まで争われるであろう。
  従来、このような認識の違いによる一種の形式犯である「虚偽記載」は、収支報告書の書き直しを命じるだけで処理していた。それを今回はいきなり大久保氏を逮捕し、小沢事務所の家宅捜査まで行った。
  検察は、家宅捜査によって、「収賄」や「斡旋利得」の証拠をつかもうとしたのかも知れない。しかし、空振りに終わったので、「虚偽記載」だけで起訴した。裁判で新たな証拠が出てこなければ、検察側敗訴の可能性もあると言われる。
  収支報告書に西松建設と書かず、二つの政治資金管理団体の名を記した政治団体には、小沢氏の政治団体以外にも、自民党の10氏以上の政治団体が在る。これも国民は新聞報道で知っている。その中には政府・与党の要職にあるため、野党の小沢氏と異なり、職務権限を持っているため「収賄」や「斡旋利得」の疑いがあるのではないかと思われる議員もいる。それなのに、小沢氏の会計責任者だけ逮捕、起訴して、他の人々の会計責任者の刑事責任を問わないのは、政治献金の額に差があるとはいえ、不公平ではないか。結局、総選挙の直前に、野党代表の会計責任者だけを逮捕、拘留、起訴したのは、民主政治の根幹である政権選択選挙に対する干渉にならないだろうか。
  ただ世論では、今回の問題点をここ迄知っていながら、なお小沢氏の代表辞任を求める声が強かった。それは、たとえ合法であっても、たとえ裁判で最終的に大久保氏が無罪になる可能性があっても、西松建設というゼネコンから多額の政治献金を受けていたこと自体に古い「金権政治」の臭いを感じ、嫌悪感を抱いたからではないだろうか。
  検察が小沢氏を「収賄」や「斡旋利得」で逮捕できなかったからといって、国民の感情は理屈通りには動かない。「一体そんな大金を何に使ったのだ」という素朴な感情に対し、政治資金収支報告書で公開していると答えても、国民は収まらない。
  しかし、このような「金権政治に対する嫌悪感」は、日本の民主政治に対する健全な支えである。今後、政治資金規正法の改正で企業・団体献金を全面禁止し、日本の政治を浄化していく上で、このような国民の感性は大切にしなければならない。仮に政権交替を実現した場合、民主党がやろうとしている政治改革にとっても、有力な支援勢力となるに違いない。