冷静に先を読め (『金融財政ビジネス』2009.4.27号)
本年2月までの日本のマクロ経済指標は、目を覆いたくなるような惨憺たる有様だ。
輸出は、2月現在マイナス49.4%とほぼ半減している。この輸出激減が、鉱工業生産と出荷を痛撃し、2月の生産は前年比−38.4%、出荷は同36.8%の落ち込みである。実質GDPは、08年10〜12月期に−3.2%(年率−12.1%)成長に落ち込んだ。3.2%のうち3.0%強は純輸出の急減によるものだ。
1〜3月期は、10〜12月期に積み上がった意図せざる在庫投資の反動減がある上、純輸出がまだ減少するので、恐らく10〜12月期と同じか、それを上回る大幅なマイナス成長になるであろう。
しかし、日本経済はいま、最悪の局面を通過中であり、落ち込みは間もなく底を打つのではないか。理由は少なくとも四つある。@輸出先と日本国内における在庫調整の完了、A大幅なマイナス成長に伴う輸入急減で純輸出がプラスに転換、B輸入物価の急落で交易条件が好転、C財政出動の効果が発現、の四点だ。
鉱工業生産は2月まで前年比下落幅を拡大してきたが、その甲斐があって1月と2月の生産者在庫は前月比で減少し、2月は前年水準を下回るに至った。3月と4月の生産予測指数は季節調整済み前月比で増加し、前年比下落幅は縮小する。本田技研は3月から、トヨタ自工は5月から、それぞれ増産に転じると伝えられる。国内の電子部品市況は在庫調整の進展で底入れ感が出ている。
国内の在庫調整だけではなく、輸出先の現地在庫調整も最終局面にきており、プラス成長を続けている新興国・途上国向けの輸出が、間もなく最終需要に沿って増加し始めるであろう。IMFの世界経済見通しによると、本年の先進国は3.0〜3.5%のマイナス成長に陥り、来年も0.0〜0.5%とほとんどゼロ成長と見られているが、新興国・途上国は本年も1.5〜2.5%のプラス成長を維持し、来年は更に+3.5〜4.5%と成長率を高めると予測されている。いま日本の輸出に占める先進国(北米、EU、大洋州)のシェアは34%、新興国・途上国のシェアは66%である。
2月現在、中国向け輸出の前年比下落幅は、前月の−45.2%から39.7%へ、香港向けは同じく−55.1%から46.3%へ、台湾向けは同じく−60.1%から51.9%へ縮小した。季節調整をすれば、前月比で増加に転じたと見られる。
第二の底打ち要因である純輸出の増加は、2月から始まった。日本銀行が試算した2月の実質輸出(季調済み)は前月比−5.5%、実質輸入(同)は同−15.9%となり昨年11月から急激に悪化した実質貿易収支は好転したので、4〜6月期からはGDPベースでも純輸出はプラスの寄与度となろう。
第三の底打ち要因である交易条件は、既に昨年の8月を底に好転しており、10〜12月期の交易損失(年率)は前期の31.2兆円から20.1兆円に縮小した。実質国内総所得(GDI)は、実質GDPよりも11.1兆円増えたのだ。
第四の財政出動12兆円(08年度第一次、第二次補正、09年度当初の各予算合計)の効果は、定額給付の開始を手始めに、4〜6月期から徐々に出てくるであろう。
3月調査「日銀短観」では、大企業製造業の売上高も経常利益も、前年同期比減少幅が一番大きいのは08年度下期で、09年度上期には減少幅が縮小し、下期には増収増益となる。
いたずらに足許の落ち込みを騒ぎ立てず、冷静に先を読む事が大切だ。