物価は上がり始めた (『金融財政』2007.12.13号)
10月の全国消費者物価(総合)と同(除く生鮮食品)は、前年同月比でそれぞれ+〇・三%、+〇・一%の上昇となった。前月比で見ると、2月をボトムに上昇に転じ、八か月間に総合で+一・四%、除く生鮮食品で+一・一%上昇した。
今後、前年同月比は来年2月まで上昇幅を拡大し、総合で二%前後、除く生鮮食品で一・五%前後の上昇率に達するのではないか。
これ迄政府は、物価動向を見る上で、少なくとも三つの誤りを犯している。
第一は、前月比のトレンドを見ないで、前年同月比で論議してきたことだ。通常、前年同月比は前月比のトレンドに対して6か月前後の転換ラグを伴う。前年同月比で二〜三%上昇するまで手をこまねいていれば、物価上昇の勢いは弾みも加わって四〜五%に達することもある。前月比のトレンドを見ることが大切だ。
第二は、除く生鮮食品で議論していることだ。生鮮食品の価格は、季節性や天候事情などによって大きく変動するので、これを入れた指数は物価の短期的な基調を見にくくする。
しかし、家計の消費行動や国民の生活にとっては、生鮮食品の価格動向も重要である。それによって消費購買力が左右されるからだ。短期の物価動向を判定するために、便宜上、生鮮食品を除くのは良いが、消費行動や国民生活に影響する物価のトレンドを判断するためには、生鮮食品を含む総合指数を見なければならない。
現在、総合指数は除く生鮮食品に比べて、八か月間で〇・三%(年率〇・四五%)早いテンポで上昇している。総合で見れば、消費者物価の上昇テンポは既に年率二%を超えている。
第三は、物価の基調判断に根本的な誤りがある。政府は消費者物価の前年同月比が9月までマイナスであったことや、GDPデフレーターが下がっていることを根拠に、まだデフレ脱却は不確かだとしている。
しかし、デフレとはマクロ経済の供給超過によって、一般物価水準が持続的に低下することである。従って企業収益は悪化し、金融緩和や利下げが有効な対策となる。
ところが日本経済は、03年度から潜在成長率の二%弱を上回る二%以上の成長を続け、需給ギャップは縮小して需要超過となった。この間企業収益率は一貫して回復し、バブル期のピークを越えた。他方、金利や量的緩和などの超金融緩和政策にも拘らず、消費者物価とGDPデフレーターは下がり続けた。
これはデフレではない。デフレは04年頃までに終わっている。その後本年2月まで進行していたのは、国内企業物価の上昇(資源・エネルギー価格の高騰)と消費者物価の下落(デジタル製品価格とサービス料金の低下)、投資デフレーターの上昇と消費デフレーターの下落、という価格体系の変化である。グローバル化とIT革命による内外価格差の縮小と新興国の発展に伴う資源・エネルギーの不足が主因だ。そして本年2月以降、遂に一般物価も上昇し始めた。
GDPデフレーターは、総需要デフレーターから輸入デフレーターを引いたものだ。総需要デフレーターは05年度から上昇しているが、輸入デフレーターが大幅に上昇しているためにGDPデフレーターは下落している。企業部門の産出価格は総需要デフレーター、投入価格は輸入デフレーターと賃金である。企業は、賃金の抑制によって投入価格全体の上昇を抑え、総需要デフレーターの上昇で大幅な収益を挙げている。デフレ・スパイラルの心配など、どこにも存在しない。