民主党のマクロ経済政策 (『金融財政』2007.11.8号)

   小泉・安倍・福田と続いて来た自民党政権の経済政策と比べて、小沢民主党の経済政策はどのような特色を持っているのか、小沢政権が成立した場合、日本経済はどう変わるのか、という質問を内外の知人からよく受ける。
   マクロ経済政策の基本原理として、@経済のグローバル化という世界の趨勢は受け入れざるを得ない、A一般的には政府の裁量的介入(規制)よりも市場原理の方がマクロ経済を運営する上で優れている、という二つの基本においては、小泉・安倍・福田自民党と小沢民主党との間に決定的な差異はないと思う。
   しかし、二つの点で、両党のマクロ経済戦略には決定的な違いがある。
   第一に、グローバル化と市場競争の結果生じる輸出関連企業と国内関連企業の間の格差、大企業と中小企業の格差、中央と地方の格差、企業と家計の格差、正規雇用と非正規雇用の格差などについて、自民党は「成長がやがて格差を縮小する」と考えるのに対して、小沢民主党は「セイフティ・ネットを強化しなければ格差は縮小しない」と考える。
   その結果、第二に、自民党は成長促進戦略に最大の重点を置くが、民主党はセイフティ・ネットの強化策に最大の重点を置く。これが財政政策と金融政策の違いに投影されて来る。
   自民党は、最大歳出項目である社会保障費、公共事業費、地方交付税交付金を削減し、歳出と財政赤字拡大に歯止めを掛けることに最大の関心があり、格差拡大には無関心であった。このため平成14〜19年の6年間に、各種社会保険料引き上げ、医療費自己負担引き上げ、所得税増税で8兆円強の国民負担増加を行った。
   小泉・安倍・福田の成長促進戦略は、竹中元大臣や中川元政調会長がしばしば明言していたように、財政政策によってではなく、超金融緩和政策の持続を当てにしてきた。
   これに対して小沢民主党は、年金基礎部分への消費税全額投入、子供手当創設、農業の戸別所得補償、最低賃金引き上げのための中小企業対策などのセイフティ・ネット強化策に一五・三兆円の財政支出を新たに投入すると言っている(前回参院選の「マニュフェスト」)。
   民主党は、この財源を既往歳出の削減によって賄うとしている。つまり、セイフティ・ネット強化に向けて歳出項目を組替えるのであり、「大きな政府」路線ではないとしている。
   財源捻出の方法は、地方自治体に対する事業補助金の一括交付化による無駄の排除、特殊法人・独立行政法人・特別会計等の原則廃止による補助金など歳出の削減、談合・天下りの根絶による行政経費の節減などである。
   その結果、中央行政の無駄が排除され、地方自治体や民間の自立性が高まって経済効率が向上するならば、経済成長を促進する効果を持つであろう。また、セイフティ・ネットの強化に伴って国民生活の安心と安全が高まれば、経済成長にとってプラスとなろう。
   金融政策について小沢民主党は何も言っていないが、自民党の超低金利・円安促進・物価上昇の成長戦略が国民生活の向上を妨げていることは、気付いているに違いない。
   民主党政権の下で、本当にこのような明るい日本経済が実現するかどうかは、小沢民主党に中央行政をスリム化して一五・三兆円の財源を捻出する政治力が本当にあるかどうかに懸かっている。それが出来なければ、「バラ撒き」型の「大きな政府」になってしまい、日本経済と国民生活の将来は明るくない。