自民党大敗の真の原因 (『金融財政』2007.8.16号)
参院選の自民党大敗は、「消えた年金」問題、不透明な事務所費の処理、大臣の失言などで「逆風」が吹いたためだと言われている。それらが響いたことは確かだ。しかし、根本的な原因はもっと深い所になるのではないか。政府、自民党、財界がそれに気付かないと、民主党に傾いたこの流れは変わらないのではないか。
今回の選挙で、自民党は「成長を実感に」「政策実行力」「美しい国日本」などのスローガンを掲げた。小泉・安倍政権の政策実行力によって経済は成長しているのであり、あとはそれを「実感」することだ、成長の先に「美しい国」を創ることだ、と言う気負いが感じられる。恐らく安倍首相も中川幹事長も、周辺の財界人も、本気でそう考えているに違いない。だから格差問題も、成長すれば解決するという「底上げ」論を本気で主張していた。
しかし国民から見ると、これらのスローガンは意味不明の一人よがりにしか見えない。
何故なら、国民には「いざなぎ景気」を越す戦後最長景気の中に居るという実感が全くないからだ。「実感」しないのが悪いと言わんばかりの自民党のスローガンに、国民は白けたのではないだろうか。
財界はバブル景気のピークを越す売上高経常利益率を謳歌しているから、成長の実感はあるだろう。しかし、国民の雇用者報酬は、最新の06年度でも9年前の97年度に戻っていないのだ。90年代の労働分配率が高過ぎたのであって、パイは大きくなっている、と言うかも知れない。
しかし、パイも小さくなっている。06年度の名目GDPは、97年度の水準にも戻っていない。一人当たりの名目GDPに至っては、10年前の世界第3位からどんどん低下して、直近の05年は世界第13位、今年あたりは20位に近づいているのではないだろうか。
自民党政権の「政策実行力」で経済が成長してきたのだという考え方を根本から反省し、成長の「実感」を国民に押し付けることをやめることだ。
名目GDPも雇用者報酬も、最近のピークは97年度である。その時自民党政権は、財政「改革」と称して、13兆円のデフレ効果を持つ超緊縮予算を実施した。経済はマイナス成長に陥り、拓銀、山一、長銀、債銀など金融機関の大型倒産を招き、01年までの5年間に通計して1%しか成長していない。03年には金融「改革」に失敗し、株価は日平均で7千円台迄下がって金融恐慌前夜となった。低成長下でデフレは続き、ゼロ金利政策を実施したので資金は海外に逃げ、円安が続いた。だから一人当たりGDPは世界の中で転落の一途を辿っているのだ。
これに加え、前述の企業と家計の格差だけではなく、輸出関連大企業と内需関連中小企業、正社員と非正社員、中央と地方でも格差が拡大している。「生活者」の実感に「成長」がある訳がない。その上、小泉・安倍内閣は、02〜07年度に合計8兆円もの国民負担増加を行った。
これでは、「生活が向上しなければよい政治とは言えない」「国民の生活が第一」「政治とは生活だ」と叫ぶ小沢民主党に敗れるのは当然ではないだろうか。
自民党は、国民の生活を向上させる経済成長とはどういうものか、真剣に考えたらどうか。竹中流の古い「新自由主義」を卒業し、「消費重視のマクロ経済学」を謙虚に勉強したらよい。年金、政治と金、内閣改造など目先の問題に対応するだけでは、小沢民主党に押しまくられる一方だろう。