6〜7月中の利上げ (『金融財政』2007.6.18号)
0.5%という異常に低い政策金利を徐々に正常な水準に引上げなければならない理由は、いくつかある。
第一に、異常な低金利の下で効率の悪い投資が増えたり、土地などの資産バブルが発生したりすれば、将来の持続的成長が脅かされる。
第二に、金利先高感が高まらない中で大幅な内外金利差がいつ迄も続き、バブル的な円安が更に進んで行くと、少なくとも以下の四つのリスクが高まる。
一.円安は輸入品の値上がりや海外旅行コストの上昇を通じ、ただでさえ弱い消費購買力を奪い、景気の足を引張る。
二.円安は海外投資家の日本株に対する投資意欲を弱めて株安要因となり、資産効果を低下させて景気抑制的に働く。
三.円安は日本企業の時価総額を下げ、五月からの三角合併の解禁もあって外国企業による日本企業の買収を容易にする。
四.ユーロ諸国の政府は、既に円安の行き過ぎに不満を述べているが、五月九日には米国議会の下院で円安に対する制裁の是非について公聴会が開かれた。米欧が揃って円安を非難すると、それを切っ掛けに円キャリ取引が逆転し(円安バブルの崩壊)、急激な円高で日本経済が混乱するリスクがある。
六月十八日に発表された一〜三月期のGDPの二次速報では、設備投資がマイナスからプラスに変わり、実質成長率は年率3.3%と、大きく上方修正された。これで成長率は2四半期連続して潜在成長率の二%弱を大幅に上回り、GDPベースの需給ギャップは縮小を続けている。
一〜三月期に足踏みした鉱工業生産も、四月の実績と五、六月の予測から判断して、四〜六月期以降再び緩やかな上昇局面に戻るであろう。
また四月の全国消費者物価(除生鮮食品)の前年比はマイナス0.1%となり、前月のマイナス0.3%よりも下落幅が0.2%ポイント縮小した。先行指標である五月の東京都消費者物価(同)は二か月連続して前年と同水準であった。石油製品値下がりに伴う一時的な前年比のマイナスは解消して行くであろう。
需給面から見ても物価面から見ても、金利水準正常化に向けて追加利上げを実施する条件は満たされつつある。
日本銀行の政策委員会が、慎重を期するため、七月初め発表の六月調査「日銀短観」まで待つとすれば、七月迄追加利上げの可能性はないということになろう。そうではなくて、金利水準正常化のテンポを遅らせるべきではないと判断すれば、六月中に追加利上げを実施する可能性がある。いずれの場合も、経済が確りしており、消費者物価(同)の前年比がプラスに戻っていれば、年内にもう一回利上げして、政策金利は今年中に一%に達するというシナリオが出てくる。このようなテンポの利上げ継続姿勢を反映した金利先高感が市場に定着すれば、円安の行き過ぎに歯止めが掛かるであろう。
多くの市場関係者は、参院選に対する配慮から日銀政策委員会が八月迄は動けないであろうと考えているようだ。しかし、次の利上げは、金利水準の正常化が可能な経済情勢になってきたということであるから、これ迄の政策が正しかったということであり、政府・与党に不利ではない。
新しい日本銀行法の下では、金融政策決定の独立性が政策委員会に保障されている。政策委員諸公の適切な判断に期待したい。