円安は日本経済に不利 (『金融財政』2007.5.17号)

   上海発の日米欧同時株安から三か月近く経ち、中国や欧米の株価は急落前の水準を回復して何事も無かったように上昇しているが、日本の株価だけが急落幅を戻しきれずにいる。米国経済、ひいては日本の輸出の先行きに不安があるからだと言う説明を聞くが、米国の株価は急落前の水準以上に上がっているのであるから、日本の株価が冴えない主因は日本側にあると見るべきであろう。市場には、足許から07年度上期の景気について気迷いがあるようで、それが株価の反発力を弱めているのであろう。
   それともう一つ、円安・外貨高の傾向が、日本の株価を欧米の株価に比して弱くしているのではないか。株価は急落前の水準に戻っていないが、同時株安の時に円キャリ取引の逆転で一時円高となった為替相場は、対米ドルでは元の水準まで円安となり、対ユーロではそれ以上に円安が進んでいる。
   ヘッジファンドを始めとするグローバルな投資家は、中国の株安で損が出れば、その損を埋めるために日米欧の株式の利喰い売りをするので、世界同時株安となる。利喰い売りで得た円資金は、取敢えず円キャリ取引の返済に向かうから円高となる。しかし、この動きが収まれば、日米欧の株価が同時に回復し、為替相場も元に戻りそうなものだが、日本の株価の回復だけが遅れ、円相場は以前よりも安くなっているのは、どうしてであろうか。
   株式評論家の話を聞いていると、判で押したように円安は株高要因、円高は株安要因と言っているが本当か。もし本当なら、円安が元に戻ったのに株価が元に戻らないのは変ではないか。
   外貨建てで採算をとっているグローバルな投資家から見れば、円安は日本株安と同じである。従って、円安傾向が続けば、その分だけ日本の株式の魅力は下がる。だから日本の株式市場への外貨の流入が少なく、日本の株価の反発力が弱いのだ。
   十年一日の如く、円安は株高、円高は株安などという解説を続けるのは止めたらどうか。グローバルに活動している日本の多くの輸出企業は、原料や部品の輸入と製品の輸出をバランスさせ、為替相場がどう動こうと連結決算ベースの利益にあまり響かないようにしている。円安や円高の製品輸出に対する影響だけを計算し、企業収益と株価にとって円安は益、円高は損などと解説するのは、いい加減にしてほしい。
   むしろ今の局面では、円高が日本市場への海外資金流入を増やし、日本の株価を上げるだろう。円安を喜んで日本の株式を大量に買う外人投資家が居るとすれば、安くなった時価総額で日本の企業を買収しようとする連中だろう。五月から三角合併が解禁になった事を考えると、この危険性は高く、円安はますますもって日本に不利である。円安はまた輸入品の値上がりや海外旅行のコスト高で、ただでさえ弱い日本の消費購買力を奪っている。
   この円安は、日本の利上げが不確かで当分はいまの大幅な内外金利差が続くという思惑から、円キャリ取引が累積していることが主因だ。従って日本の金利の先高期待を市場に生み出すことが出来れば、円安傾向に歯止めが掛かり、日本経済と株価の回復を支援することになる。
   日本銀行は、一〜三月期の成長率が潜在成長率を引続き上回り、五月末発表のコアCPIの前年比下落率が縮小することを確認出来れば、六月にも再利上げを実施すべきであろう。七月の参院選に配慮して利上げを躊躇するような政策委員会とは思えない。