利上げ継続と金利正常化 (『金融財政』2007.4.9号)

   消費者物価(除生鮮食品)は、原油価格反落の影響などから、二月の全国と三月の東京が前年比マイナス〇・一%となった。今後しばらくはゼロ、ないしマイナスで推移しそうだ。他方一〜三月期の鉱工業生産は、6四半期振りに前期比マイナスとなりそうである。このような情勢を反映して、三月調査の『日銀短観』では、各企業規模で製造業の業況判断DIが十二月調査より悪化している。一部では、このような足許の経済の弱さが、今後の継続利上げの足かせになるとの見方もある。
   しかし、追加利上げを実施した二月の日本銀行政策委員会・政策決定会合の『議事要旨』を見ると、「目先消費者物価が弱含みに推移し、場合によってはマイナスとなることは十分念頭に置いた上で」「一〜二年先の経済や物価の姿を展望したフォーワード・ルッキングな視点に基づく」政策金利引上げであるとしている。
   つまりこの消費者物価下落は、石油製品の値下がりなどの一時的要因によるものであり、GDPベースのマクロ需給ギャップが昨年十〜十二月期の年率五・五%成長によってはっきり需要超過になっているうえ、今後の成長率も潜在成長率の二%弱を上回り続けるので、数か月後には物価上昇率は再びプラスに戻るという長期的視点を強調しているのである。
   確かに三月調査『日銀短観』では、大企業製造業は悪化したが、非製造業や中堅・中小企業の業況判断DIは、小売、運輸、情報サービス、対個人サービスを中心に、先行き好転する見通しである。このため全企業ベースで07年度は増収増益を続け、設備投資も増え続ける。
   日本銀行法に定める金融政策運営の理念が、「物価安定を通じる経済の健全な発展」であるため、日本銀行は、主として成長とマクロ需給、それを反映した物価上昇率の視点から利上げの理由を説明せざるを得ない。しかし、継続利上げの理由には、もう一つ金利正常化論があり、これには三つの視点がある。
   一つは金利水準論で、現在の〇・五%という短期金利の水準が、今後の成長率と物価上昇率から見て低すぎるので、生産性と収益性の低いプロジェクトへの投資が増え、先行きの潜在成長率の低下要因となり、長い目で見て日本経済の健全な発展を妨げるという主張である。
   第二は円安バブル論で、異常に低い日本の短期金利で円資金を調達し、外貨に替えて(ここで円安圧力)高い金利で投資や融資をする「円キャリ取引」が累積し、既に二十兆円にも達しているが、何かの切っ掛けでこの巻き戻しが起ると、急激な円高が発生し、日本経済が混乱する恐れがある、という懸念である。
   過日の上海発の日米欧同時株安のような金融ショックがもっと大規模に起ったり、ユーロ諸国だけではなく米国政府までもが円安の行き過ぎを非難したりした時にその危険性があり、日本経済の健全な発展が妨げられる恐れがある。
   第三は金融市場立直し論で、異常な低金利によって金利機能が働かず、短期金融市場は衰弱し、サムライ・ボンドなど円建の金融・資本市場は壊滅している。日本は巨額の対外純資産を円建資産で持つことが出来ず、為替変動リスクに晒された外貨建資産で持っている。これも日本経済の健全な発展にとって不利である
   以上、三つの金利正常論は日銀法に定められた「日本経済の健全な発展」という政策運営理念にも合致している。日本銀行は、この金利正常化論をもう少し前面に押し出して、継続利上げの必要性を国民に説明すべきではないか。