経済成長は持続するか (『金融財政』2006.6.1号)

 05年度はバブル崩壊後最高の3%成長となった。しかもこの景気はバブル景気を超え、十一月には戦後最長のいざなぎ景気を超えようとしている。このように景気が続くのは、性格の異なる二つの景気が連結しているからだ。
 02年弟1四半期から04年第1四半期までの景気は、典型的な輸出主導型回復であった。輸出と輸出関連設備投資がリードし、内需関連設備投資、民間消費、住宅投資は弱かった。このため、04年に入って米国と中国の成長が鈍化し、輸出の伸びが落ちると、04年第2四半期から第4四半期までの3四半期は、通期でマイナス成長となった。
 ここで成長は失速したのであり、景気回復は一回終わったと定義すれば、今回の景気は始まったばかりだ。事実景気動向の一致指数と先行指数は、04年九月以降三か月以上連続して五〇%を割り、その後両指数が再び三か月以上連結して五〇%を上回り始めたのは、05年の春以降である。
 05年第1四半期から始まった新しい景気上昇は、典型的な内需主導型回復である。内需関連の設備投資も増加し始め、民間消費と住宅投資が立直って成長をリードし始めた。これは二年目に入ったばかりの「若い景気」であり、来年迄続いたとしても不思議ではない。
 成長失速をはさむ前半と後半の景気を分けるキーワードは、「三つの過剰」である。三つの過剰が続いていた04年までは、企業(銀行を含む)収益は、過剰設備・営業所の除却、不動産の損切り売り、高齢正社員の慫慂退職、債務返済、不良債権処理など後ろ向きの資金に使われ、新規の設備投資や雇用など前向きにはあまり使われなかった。だから内需が弱かった。
 しかし05年に入って遂に三つの過剰は解消した。「日銀短観」の生産・営業用設備判断と雇用人員判断は、バブル崩壊以来の「過剰」超から「不足」超に転じた・特殊要因調整済み銀行貸出の前年比は八月からプラスに転じた。この三つの過剰の解消こそが、今後の日本経済における内需の伸びと潜在成長率を高め、財政刺激の乗数効果と金融政策の有効性を高めるであろう。05年から始まった「若い景気」が、緩やかな、しかし持続的成長をもたらす可能性があるのは、このためである。
 勿論、前途にリスクが無いわけではない。ゼロ金利を離脱し、早過ぎず、遅すぎない金利の緩やかな引上げに日本銀行が成功するか、市場の行き過ぎた思惑で長期金利が上がり過ぎないか。インフレ懸念と消費・住宅投資の減速懸念というスタグフレーション的気配が出てきた米国経済が、うまく潜在成長率の三%に軟着陸出来るか。それとの兼ね合いで、急激な円高が起こらないか。今後の原油相場がどうなるか。
 しかしこれらのリスクは、日本の金利上昇も円高も、基本的には日本経済の持続的成長の反映である。原油高も世界経済の拡大基調が強いことが一因だ。五月連休明けの株価のように、周章狼狽するのはいかがなものか。
 やや中期的にみると、日本の持続的成長を潰しかねない政策リスクがある。政府与党の歳入歳出一体改革である。政府与党は、社会保障費、公共事業費、地方交付税、人件費などの「論理なき」削減とサラリーマン大増税を考えている。このデフレ効果は大きい。そうではなくて、民間のビジネス・チャンスや地方の自立した効率的投資を拡大するような規制撤廃、地方主権化、官業廃止など中央官僚の「過剰介入」の仕組みを変える歳出削減なら成長阻害はない。