高成長・低インフレを目指せ (『金融財政』2006.4.27号)

  
財政再建の中期シナリオを巡って、政府与党内に対立が起こっている。与謝野・谷垣両大臣は、四%の長期国債金利と三%の名目成長率、竹中大臣・中川自民党政調会長は、逆に三%の長期国債金利と四%の名目成長率を主張している。経産省は、金利も成長率も三・一〜三・六%だと言い出した。
 よく知られているように(ドーマー条件)、中期的に長期国債金利が名目成長率を上回ると、プライマリーバランス(公債の償還・利払いを除いた歳出と税収の差、以下PB)を均衡させても、政府債務残高の対GDP比率は上昇を続ける。これを低下させるには、PBを大幅黒字化させるための厳しい増税や歳出削減が必要になる。これに対して、中期的に長期国債金利が名目成長率を下回っていると、PBを均衡させることによって政府債務残高対GDP比率は低下していく。
 つまり、与謝野・谷垣派は厳しい増税と歳出削減をしないと財政再建は出来ないと主張し、竹中・中川派はそれ程厳しい増税と歳出削減をしなくても財政再建は出来ると言っているのである。与謝野・谷垣派は財務省が主張している消費税と国民負担の大幅引上げを支持し、竹中・中川派はポスト小泉に財務省ほど厳しい政策を用意したくないのであろう。
 実際の長期国債金利と名目成長率の関係は、決して単純ではない。日本を含むOECD加盟国の歴史的な経験をみると、民需主導で比較的高い実質成長率を維持している時期には、長期国債金利を名目成長率が上回ることが多い。戦後一九七〇年代迄や二〇〇四年以降がそうである。逆に、財政主導で低い実質成長率を支えていた八〇年代から〇三年頃までは(日本は九一年以降)逆のケースが多い。また、物価が不安定で中期的なインフレ率の高い国の方が、金利が成長率を上回る傾向がある。
 従って、中期的に高い実質成長率と低いインフレ率を実現した方がドーマー条件が満たされ、財政再建はやり易いのである。経産省の前提がそれに近い。
 与謝野・谷垣派と竹中・中川派のシナリオを比較すると、実質成長率が高ければインフレ率も高いという関係が見られる。それを前提に、長期金融緩和でインフレ率の上昇を許容すれば、実質成長率も高くなると考えているとすれば、大きな誤りである。インフレ率の上昇を許容すれば実質成長率が上がるのは、インフレの加速やバブルの発生がない短期の話である。中長期的にはインフレやバブルの発生と反動不況で実質成長率は下がってしまう。八〇年代後半以降今日まで、日本で経験したことだ。
 中長期的にみると、インフレ率と実質成長率の間には一義的な関係はない(長期フィリップス曲線は垂直)。しかしインフレ率と長期金利の間には、予想インフレ率を通じて関係がある(フィッシャー効果)。従って金融政策は、インフレ率を低位に安定させることによって予想インフレ率を下げ、実質成長率を下げずに長期金利を下げ、ドーマー条件を満たすことが出来る。
 他方実質成長率には、歳出削減(行政改革)の中身や増税の仕方が深く係わっている。民間経済や地域経済を活性化する規制撤廃や地方分権によって中央政府の担当組織と人員を減らし、また民間に移譲出来る仕事をしている特別会計、特殊法人、公益法人、独立法人を廃止するなら、歳出削減が経済の効率を高め、実質成長率を引上げることが出来る。財務省流の消費税大幅引上げで実質成長率を下げないですむ。