ゼロ金利はいつ迄続くか (『金融財政』2006.3.27号)

   日本銀行政策委員会は、三月九日の政策決定会合で、量的緩和政策の解除を決めた。金融政策の操作目標は、日銀当座預金残高からコールレート(無担、翌日物)に戻った。
現在三〇〜三五兆円ある日銀当座預金は、金融調調節を通じて、数ヶ月のうちに六兆円程度まで引き下げられる。これによってインターバンク市場は機能を回復して拡大し、日銀オペに過度に依存していた銀行の資金繰は、自主性を取り戻す。現在の所要準備預金残高は六兆円弱であるから、日銀当座預金残高がこの額を下回らない限り、コールレートはゼロ%にとどまる。その意味で、新しい操作目標はゼロ%のコールレートであり、ゼロ金利政策は続く。
日銀当座預金に積まれていた巨額の過剰準備残高は、銀行貸出、ひいてはマネーサプライを増やして景気回復を促進する効果を持たなかった。ただ、金融危機発生のリスクがあった頃は、予備的流動性として金融システムに一定の安心感を与えていた。しかし、今日では、無用の長物であり、むしろ市場の機能を阻害し、銀行経営の自主性を妨げるマイナス面だけが残っていた。従って、量的緩和政策を解除し、日銀当座預金残高を六兆円程度に引き下げても、コールレートがゼロ%にとどまる限り、成長には何の悪影響もない。
にも拘らず、小泉首相や竹中大臣など一部の与党政治家が量的緩和政策の解除に反対したのは何故か。一つにはデフレがまだ続いており、持続的成長に不安があるという経済の基調についての心配であろう。もう一つは量的緩和の解除で中長期金利の急騰や株価の急落が起こり、成長が阻害されないかという不安である。
経済の基調認識としてまだデフレが続いているというのは、GDPデフレーターの下落で名実逆転が続いているからであろう。しかし、消費者物価、国内企業物価、輸出物価の上昇で国内需要と輸出のデフレーターは上昇している。にも拘らず資源エネルギー価格の高騰で輸入デフレーターがもっと上昇しているからGDPデフレーターは下がるのである。日本経済の需給基調は、デフレどころか、平成一七年度の内需主導型三%台成長で締り始めている。まだ、デフレが続いていると言うのは、およそ経済の実態からかけ離れている。
量的緩和解除の政策効果として中長期金利の急騰や株価の急落が起きるという懸念は、事実によって否定された。中長期金利は落着いている。量的緩和政策が解除されてもゼロ金利は続くことを市場が理解し、織込み済だからだ。不透明感が払拭され、株価は反発した程だ。
今後の問題は、ゼロ金利政策がいつ迄続くと市場が判断するかだ。日本銀行は物価の安定を通じて持続的成長を図るのが使命であるから、物価の安定が崩れない限りゼロ金利を続けるであろう。日本銀行は消費者物価の前年比が〇〜二%であれば物価安定の範囲内と大きく異ならないが、政策委員が理解する物価安定の中心値は一%の前後に分散していると述べている。
この数値はインフレ率の目標値(ターゲット)でも参照値でもないが、市場に手掛りを与えている。恐らく前年比が一%を超えればゼロ金利解除の警戒水準であり、二%に達しないうちに金利を引上げるということではないか。
私の予測では、早くても秋以降、あるいは来年かも知れない。しかしそうならないうちに地価や株価にバブルが発生したらどうするのか。目標値でも参照値でもないのであるから、日本銀行は柔軟に対応出来ると解釈したい。