格差拡大と生活リスク (『金融財政』2006.2.27号)

   最近所得格差や資産格差の拡大が問題になっている。政府は少子高齢化の反映だと強弁しているが、年齢階層別のジニ係数も上昇しているし、地域間・企業間の格差も拡大している。
   社会的格差の拡大は、国民にとって一種の社会的リスクの拡大である。特に、若年層のフリーターやニートは現在の格差であると同時に、将来は無年金層になるリスクである。
   社会的リスクは所得面だけではない。耐震設計偽装、鉄道・航空事故多発、アスベスト被害、暖房器具欠陥、輸入牛肉問題などすべて生活上のリスクである。ライブドア問題も、ライブドア株を売却する機会もないままに暴落したという意味で、国民の資産を脅かすリスクである。
   民主党は現在開かれている通常国会を、国民の安全・安心を確保するための国会と位置付けているが、当然であろう。しかし、いわゆる四点セット(ライブドア・耐震偽装・輸入牛肉・防衛施設庁談合)をバラバラに攻撃しているだけでは、敵失に乗じた批判だけで、国民の安全・安心を本当に考えていることにはならない。もっと根本的に、何故社会的格差が拡大し、何故広範な分野で生活上のリスクが高まっているのかを、政策体系として批判しなければならない。
   社会的格差拡大や生活上のリスク増大は、規制緩和の行き過ぎによるものだという考え方がある。規制緩和で競争が激しくなるので勝者と敗者の格差が拡大するのであり、規制緩和で企業が好き勝手な金儲けをするから国民生活上のリスクが高まるのだ、という説である。この考え方に立てば、ライブドア問題の解決策は株式分割を禁止することであり、耐震設計偽装、鉄道・航空事故、アスベスト被害、暖房器具欠陥などの対策は、政府の業界指導を強化し、場合によっては国営・公営事業を増やそうという政策につながっていく。これは民間より政府の方が賢く、民営より国・公営の方が安心できるという思想だ。
   しかし、これでは細川内閣の経済改革研究会(平岩研)以来、新進党、自由党、民主党と受け継がれ、最近ではうわべだけ小泉内閣がパクッた規制緩和の政策思想に対する逆行である。
   政府主導から民間自立へ、中央支配から地方主権へという規制緩和の政策思想は、現場に近い民間や地方の方が政府や中央よりも実状をよく知っており、国民のニーズに応えられるという判断に立っている。政府主導や中央支配のシステムがかつてうまく機能したのは、先進国に追い付く過程で政府や中央の方が先進国の事情をよく知っていたからである。追い付いた今は民間や地方の方が国民のニーズをよく知っているので、効率的に対応できる。
   この規制緩和の政策思想は、もともと競争万能主義ではない。「市場の失敗」が起きることを承知しているからだ。「市場の失敗」とは、所得や資産の格差拡大、景気の変動、失業の発生、雇用差別、環境破壊、地域格差拡大、不正取引などだ。従って規制緩和による競争促進政策は、必ずもう一方の側に、社会保障や租税による所得再分配政策、環境維持・公害防止の対策、景気変動平準化の政策と失業対策、雇用差別を防ぐ労働政策、不正取引を防ぐ監視体制と罰則などを用意していなければならない。
   「市場の失敗」を防ぐこれらの政策は、民間には出来ないことであり、従ってこれらの強化は規制緩和の逆行ではない。通常国会における民主党の批判は、このような政策思想をふまえた体系的なものであって欲しい。間違っても規制再強化を口にしないで欲しい。