日本経済の失速 (『金融財政』2004.12.27号)

   今年の日本経済は、年初、「日本経済復活の序曲」「失われた十年からの脱却」などと一部のエコノミストやマスコミに騒がれて勢いよく飛び出したが、いま年末を控え、完全な失速状態で年を越そうとしている。鉱工業生産と出荷は、七〜九月期に続き、一〇〜一二月期も前期比マイナスになりそうである。在庫率は二月を底に上昇傾向にある。景気動向指数の一致系列は、八、九、一〇と三ヶ月連続して五〇%を割り、景気後退入りの可能性を示している。
   一二月八日に発表された改訂GDPを見ると、今回の景気回復期で確り成長したのは、〇三年四〜六月期から〇四年一〜三月期まで一年間の四・〇%成長だけだ。その後四〜六月期は前期比マイナス〇・一%、七〜九月期は同プラス〇・一%と完全な失速状態にある。
   政府は、今回の景気回復が〇二年四〜六月期から始まったと言っているが、それから本年七〜九月期までの10四半期を平均すると、年率僅かに二・二%の成長率に過ぎない。これは前々回の連続プラス成長期(九五年一〜三月期から九七年一〜三月期)の平均年率三・四%を大きく下回り、前回(九九年一〇〜十二月期から〇一年一〜三月期)の同二・六%にも及ばない。
   それもその筈で、前々回も前回も、9四半期あるいは6四半期の間、連続してプラス成長をしているが、これに対して今回は、〇二年一〇〜一二月期、〇三年一〜三月期、〇四年四〜六月期の3四半期はマイナス成長を記録しているからだ。厳密に連続プラス成長期と定義すれば、今回は前述の〇三年四〜六月期から〇四年一〜三月期迄の4四半期にすぎない。こんな弱々しい成長が、どうして「日本経済復活の序曲」や「失われた十年からの脱却」なのか。
   年初大騒ぎをしたエコノミストやマスコミは、この4四半期間の四%成長に目を奪われて、今回回復の定性分析を怠ったのではないか。
   今年の成長失速は、ミニIT不況の発生、原油価格の高騰など年初にあまり注意を払われていなかった特定部門の動きや、外生的な衝撃を主因として起ったのではない。年初から十分に予測できた経済の内在的メカニズムによって、起るべくして起ったのである。
   私はこの欄「BANCO」で、この一年間、その事を三回指摘した。まず一月一五日には、"景気回復の実相"という題で、今回の輸出リード型景気回復の下では、雇用者報酬が減り続けているので、民間消費の自律的回復にはつながらないと主張した。
   続いて六月一七日には、"持続的成長の条件はあるか"という題で、輸出と輸出関連設備投資にリードされた生産回復の下で、雇用は増加せず、賃金単価は下がり続けているので、勤労者所得は減っている。従って、輸出増加が引き金となって雇用・賃金が回復し、勤労者所得の増加が個人消費と住宅投資を刺激して内需関連企業の生産、投資、雇用・賃金を回復させ、それが更に内需関連企業への需要を生み出すという「自律的回復の好循環」が生まれない。故に今回の景気回復には、「持続的成長の条件」は無いと断定した。
   最後に九月二日には、"明年の経済成長は失速する"という題で、景気好循環の鎖が切れたまま輸出が鈍化し、輸出関連設備投資が峠を越えるので、明年の経済は失速すると予測した。
   不幸にして私の予測した通りの論理で(詳しくは拙著『日本経済 持続的成長の条件』東洋経済新報社本年六月刊参照)、私の予測よりも早く、日本経済は失速した。