竹中金融行政の功罪 (『金融財政』2004.10.14号)

   内閣改造に伴ない、竹中平蔵氏が金融担当大臣からはずれたので、約2年間の竹中金融行政について、総括してみよう。
   2002年9月に就任した竹中大臣は、10月に「金融再生プログラム」(竹中プラン)を発表し、「主要行の不良債権比率を2005年3月までに半減させる。ペイオフ解禁の完全実施はそれ迄延期する」という政策転換を行った。その上で主要行に不良債権処理を急がせ、その結果自己資本比率が四%を割ってしまった「りそな銀行」には、竹中プランの「特別支援」として2003年春に公的資本の注入を行った。
   このように竹中金融行政は、不良債権の早期処理を最優先とし、それに耐えられない主要行には公的資本を注入して国有化するという荒療治を行った。そして、それが終わる迄はペイオフ解禁を延期するという非常措置をとった。
   前任の柳沢大臣の「銀行は健全。公的資本注入は不要」という発言を信じなかった海外投資家は、「ペイオフ解禁を予定通り実施」すれば金融不安の発生は必至と見て銀行株を売っていた。しかし竹中大臣の方針転換と「りそな銀行」に対する実際の公的資本注入決定を見て安心し、銀行株の買に転じた。これによって日本の株価も、2003年4月28日の日経平均7607円をボトムに反転した。
   他方、不良債権比率の方も、低下し始めた。少なくとも大手行については、2005年3月迄にプログラム通り約半分の4%台にまで低下するであろう。その上で、ペイオフも予定通り2005年4月に解禁される可能性が強い。
   このように竹中プランは一定の成果を挙げた。しかし、これによって日本の銀行は、リスクを取って貸出を拡張し、その結果マネーサプライは増え始め、国内景気の回復を支えるようになった訳ではない。日銀の量的緩和政策によって、不活動のベースマネーが30兆円以上も日銀預金に積まれているのに、銀行貸出は依然として減り続けている状況は改まっていないし、今後も改まらないであろう。
   竹中プランの致命的な問題点は、不良債権比率さえ下がれば、日本の銀行はリスクを取って貸出を拡張し始めると考えている点にある。そして、貸出抑制の真の原因であるBISの自己資本比率規制を金科玉条のように守っている。
   いま日本の金融学界では、BISの自己資本比率規制の理論的な誤りと、現実的な形骸化を指摘する研究が増えている。国際的にも、ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ教授が、BISの自己資本比率規制は銀行の安全性を高める効果はないし、過度に銀行の貸出を抑制し、国債保有を増やすと批判している。
   その事がいま現実に日本で起こっている。
   銀行のポートフォリオ形成において過度に貸出意欲を低下させ、国債の投資に向かわせている。これは、第一に「流動性のワナ」を長引かせ、当面の経済成長を抑制する。第二に、将来成長が高まって金利が上昇した時には、国債の大きな含み損を発生させる。その結果、日本の銀行業はいつ迄たっても活性化しない。
   BISの自己資本比率規制は、少なくとも日本の国内銀行への適用を中止すべきである。金融行政は、国内銀行の自己資本比率とその内訳、不良債権比率とその内訳、各種の収益性指標を検査し、それら3指標の正確性と透明性を高めるところ迄である。3指標の組合わせをどうするかは銀行経営そのものの仕事であり、その結果に関する判定は市場にまかせ、その結果責任は銀行経営者が負うべきことである。