明年の経済成長は失速する (『金融財政』2004.9.2号)

   足許の景気は回復しているが、株価は冴えない動きをしている。本年度下期以降の景気、ひいては企業業績に不安材料が出ていることが大きな背景であろう。
   今回の連続プラス成長の局面(02/U〜04/U)を前回(99/W〜01/T)や前々回(95/T〜97/T)と比較してみると、際立った特色が5つある。
   @は輸出リード型の特色が突出していることだ。前回と前々回では、純輸出の成長寄与度はほぼ中立的であった。
   Aは前回と同程度に投資リード型であることだ。もっとも今回の投資は、輸出関連製造業の設備投資に大きく偏っている。
   Bは前回と同じように消費リードの程度は低いが、今回は雇用者報酬が減少している下で、貯蓄率を引下げて何とか消費を増やしていることが特色だ。
   Cは財政政策が、今回は支出面で成長の足を引張っている反面、税収の減少を公債発行増加で賄うビルトイン・スタビライザー効果が5兆円を超えていることが特色だ。この点は大方の人が見落している。
   Dは前回のゼロ金利政策(99/2〜00/8)とは異なり、今回は量的緩和政策(01/3以降)に支えられていることだ。
   以上の5つの特色は、本年度下期以降明年度にかけて、成長の持続性とどのように係わって来るであろうか。
   第一に、@の輸出とAの輸出関連設備投資だけでは、持続的成長は成立しない。米国と中国の成長減速に伴って、日本の輸出の伸びも早晩鈍化する。中国発の原料高・製品安、とくに原油価格の高騰が企業収益や実質個人所得を圧迫し、世界と日本の景気に悪影響を及ぼして来る。そのような中で、輸出関連設備投資の伸びも本年度をピークに鈍化してくる。
   他方政策面はどうか。いまのC財政政策とD金融政策では、景気の悪化を食い止めることは出来ても、持続的成長のリード役にはなれない。財政は、連続プラス成長に伴なう税の自然増収によって、ビルトイン・スタビライザー効果は後退し、支出削減のデフレ効果だけが残る。金融は、連続プラス成長が続けば早晩超金融緩和からの出口が模索され、長期金利の上昇と多額の国債評価損が発生する。
   結局、成長の持続性は、Bの雇用者報酬が今後増加に転じ、個人消費の回復を支え始めるかどうかに懸っている。
   現在企業は、社会保険料負担の追加を避けるため、出来る限り時間外労働に依存し、常用雇用を増やす場合も正社員を避け、非正社員(パートタイマー、派遣社員など)の比率を引上げている。また増益企業はベース・アップを避け、一時金を支給して固定費の増加を防いでいる。
   このような企業努力は、損益分岐点操業度を引下げ、企業の収益力を高めることに大きく寄与している。それが現在の低増収・高増益を支えている。しかしマクロ経済的にみると、企業増益が個人所得の増加にスピルオーバーして来ないので、成長の持続性を支える個人所得の回復につながらない。その上、小泉政権の年金政策と税制改革によって、国民負担は本年度に1.3兆円、明年度以降は2.2兆以上増加して可処分所得を圧迫する。
   国内のビジネス・チャンスを増やす規制改革(拙著『日本経済 持続的成長の条件』東洋経済新報社04年6月刊参照)を本気で推進しない限り、明年の成長失速は必至であろう。