6月「短観」の読み方 (『金融財政』2004.7.15号)

    6月調査「日銀短観」は、輸出主導の景気回復が国内経済にも浸透してきたことを示すと解説されているが、これは不正確な解釈ではないだろうか。確かに全規模全産業で「業況判断DI」が好転し、また2004年度の売上高の伸びが前年度より加速する計画になるなど、景気回復の持続を裏付けるものにはなっている。
   しかし、内容を仔細にみると、大企業・製造業の好転が突出している。大企業・製造業に比較すると、「業況判断DI」の好転幅は、中堅・中小企業や非製造業はその半分、あるいは半分以下である。とくに小売業の「業況判断DI」は、大・中堅・中小の各規模で悪化しており、また不動産は大企業で、建設は中堅・中小企業で悪化している。
   売上高の伸びも、大企業・製造業は輸出が前年度の+3.7%から本年度は+5.1%と伸びを高めることを主因に、全体としても+1.4%から+2.4%に加速する計画である。しかし、中堅・中小企業や非製造業の売上高の伸びは+5.1%よりもはるかに低く、なかには中堅企業・製造業のように本年度の売上高の伸びが前年を下回る予測もある。
   また設備投資計画を見ても、大企業・製造業は前年度の+5.4%から本年度は+20.4%と飛躍的に伸びる計画となっている。ところが中堅・中小企業・製造業や各規模・非製造業は、前年度に比べて本年度の伸びが落ちるか、減少する計画となっている。
   以上のことから分かるように、6月調査「日銀短観」は、従来から言われていた輸出と輸出関連設備投資にリードされた回復を裏付けるものであって、その回復が国内需要(小売、不動産、建設など)に広がりを見せている証拠は見当たらない。好調な大企業・製造業でさえ、「雇用人員判断DI」はまだ「過剰」超の10%ポイントで、先行きも8%ポイントに縮小するに過ぎない。大企業で新卒採用がプラスに転じる計画は、来年度の話である。これでは個人消費や住宅投資への広がりようがない。
   あまり注目されていないが、6月「短観」には、先行きの不安材料も潜んでいる。
   第一は原料高・製品安の見通しである。全ての規模と全ての産業で、「販売価格判断DI」はデフレの継続から大幅な「下落」超の予想となっている。しかし他方で「仕入価格判断DI」は、中国の基礎資材のボトル・ネックや中東原油供給の地政学的リスクを反映した国際原料品市況の高騰から、逆に大幅な「上昇」超の予想となっている。
   第二は、「借入金利水準判断DI」が、先行き20%ポイントの大幅な「上昇」超となっていることである。米国の利上げや国内に出てきた超金融緩和からの「出口」論の影響で、金利上昇の予想が強まっているのであろう。
   第三に、本年度の増収率は前年度よりも高まるが、増益率は、製造業が前年度に比べて半減することを主因に、大きく低下する。原料高・製品安と金利負担増加による企業収益の圧迫が一因である。
   「業況判断DI」の好転の長さ(02年6月〜04年6月)から判断すると、今回の景気回復は前回(99年3月〜00年12月)の長さを超え、前々回(94年5月〜97年6月)に迫っている。しかし前々回並みに達するには、来年の6月調査まで好転を続けなければならない。三つの不安要因を抱えてそれが可能だろうか。足踏みを続ける株価は、それに疑問を持っているのではないか。