「7%成長」の意味 (『金融財政』2004.3.25号)

   昨年10〜12月期の実質GDP(第一次速報)が、前期比年率+7%成長というバブル期以来の高い瞬間風速となったために、日本経済はいよいよ本格的な立直りかという声も一部に出ているが、私は疑問に思う。
   第一に、1四半期だけの瞬間風速で経済のトレンドは判断できない。しかもこの瞬間風速は、その後発表される法人企業統計や季節調整の修正などに伴ない、下方修正される可能性がある。果せるかな第二次速報では、年率+6.4%に引下げられた。
   第二に、トレンドという意味で2003暦年の平均成長率をみると、+2.7%である。これは前回プラス成長期における2000年度の+3.0%や前々回プラス成長期における1996年度の+3.4%よりも低い。トレンドとしては、いよいよ長期停滞を脱するかという程のスピードが出ている訳ではない。
   トレンドという意味では、次の2004年1〜3月期の成長率が注目される。10〜12月期急伸の反動でゼロ成長ないしマイナス成長になると、二〇〇三年度の平均成長率は+2.8%以下にとどまる。+3.0%に達するためには、1〜3月期に前期比+0.9%(年率+3.7%)以上のスピードが維持されなければならないが、果してそうなるであろうか。
   第三に、マスコミは殆ど注目していないが、今回のGDP統計発表で、景気回復の流れについての考え方を変えなければならないような大きな統計の修正があった。それは、2002年10〜12月期の実質GDPが前期比+0.4%から同−0.1%へ、0.5%(年率2%)ポイントもの下方修正が行われたことである。
   この意味は大きい。政府は2002年4〜6月期に「景気回復宣言」を発表し、この時から連続6四半期のプラス成長が続いているという統計を発表し続けていた。
   しかし、2002年10〜12月期がマイナス成長だとすれば、景気はこの時に一度失速したのであり、「景気回復宣言」は空振りしたことになる。そして今回の連続プラス成長は2003年1〜3月期から始まり、まだ4四半期連続にすぎないことになる。前回は6四半期連続、前々回は9四半期連続のプラス成長であったから、本年の上期に連続プラス成長を維持して前回並み、来年まで連続プラス成長を維持してやっと前々回並みの回復である。
   従って、2003年10〜12月期の瞬間風速だけで、今回はいよいよ長期停滞からの脱出だと騒ぐのは、まだ早過ぎる。
   それにしても、GDP統計のような景気判断の基礎統計を、1年以上もたってからプラスからマイナスに変えられては困る。逆に言えば、2003年10〜12月期のGDP統計も、その程度の信憑性しか持っていないと思って使わなければならない。
   私のHP(http://www.suzuki.org)の「月例景気見通し」欄の2003年1月版と2月版では、各種統計から判断して2002年10〜12月期に景気は失速したので、マイナス成長であろうと予想した。それが前期比+0.5%の増加と発表されたので、2003年3月版では、これは過大推計だと断じ、政府推計の根拠は不透明で説明責任を欠いていると述べた。
   今頃になって私の主張が正しかったと分かっても遅すぎる。政府のGDP統計には大きな不信感を抱かざるを得ない。