景気回復の実相 (『金融財政』2004.1.15号)

   日本経済は、小泉政権の緊縮予算の下で、純輸出と設備投資にリードされて、6四半期連続のプラス成長を実現した。このため「日本経済復活への序曲だ」などという声が、一部のエコノミストから上っているが、本当だろうか。
   バブル崩壊後現在までの一〇年間程の長期停滞の間に、6四半期以上連続してプラス成長を記録した時期が、今回を含めて三回あった。九五/T〜九七/T(前々回)、九九/W〜〇一/T(前回)、〇二/U〜〇三/V(今回)だ。
   このうち、前回と前々回は年率三%台で成長したのに対して、今回は年率二%台である。経済成長の勢いから見る限り、日本経済の潮目の変化を感じさせるものはない。
   成長要因を比較してみると、三つの回復局面はかなり際立った違いを示している。
   第一に、前回も前々回もプラスであった政府支出の寄与率が、今回は大きなマイナスである。小泉政権の緊縮予算の下で、公共投資を中心に歳出が削減されているからだ。
   第二に純輸出の寄与率が、前回と前々回は無きに等しいが、今回は極めて大きい。
   第三に民間投資の寄与率が今回と前回は極めて高い。
   第四に民間消費の寄与率が、前々回、前回、今回と期を追って低下しており、今回は民間消費の寄与が極めて小さい回復である。
   まず第一の点については、財政の景気に対するインパクトは、支出の大きさだけで決まるものではない。小泉政権発足時の〇一年度当初予算は二八兆円の公債発行であったが、〇四年度当初予算案では、三七兆円弱であり、四・六兆円の「隠れ借金」を加えれば、実勢は四一兆円に達する。
   この一三兆円の公債発行増加は、経済停滞に伴なう税収の落込みを埋めたもので、財政のビルトイン・スタビライザーである。これは大きな景気下支え効果を持つ。財政の支えの無い民需主導の自律的回復と言うのは言い過ぎだ。
   次に、今回純輸出の寄与率が高いのは、輸出の伸びが高いからというよりも、輸入の伸びが低いからである。今回は輸入の二五%を占める素原料が鉱工業生産の低水準で減少している。この素原料の輸入は、生産の回復につれ、増え始めるであろう。また純輸出の増加が円高を生み出せば、日本の企業は海外生産の比率を上げ、この面からも純輸出は減り始める。
   第三に設備投資について、今回と前回を比較してみると、回復のスピードは、前回は年率一二・三%、今回は同八・六%と今回の方が遅い。今回の設備投資が前回よりも強力に回復をリードするので、日本経済の潮目が変わるという主張は根拠がない。
   最後に民間消費の背後にある雇用者報酬の伸び率を、今回、前回、前々回について比較すると、今回の回復局面だけは雇用者報酬が減少している。これは、この時期の日本の企業が、本格的な人件費総額の抑制に取組んだからだ。
   企業がリストラによって損益分岐点操業度を下げ、成長率が低くても高い収益率をあげるようになったという今回の特色は、民間投資リード型の回復にとってはプラスであるが、それが雇用者報酬を減らし、民間消費の自律的回復につながらないという点ではマイナスである。
   IT産業の復活や中国を中心とする東アジアの最発展という好条件はあるが、日本経済の九割弱を占める内需関連企業の調整や不良債権処理は今が真最中だ。高失業率とデフレという重荷を背負った歩みはまだ続くのだ。