小泉・竹中理論の誤り (『金融財政』2003.10.9号)

   民主党の「マニフェスト」(第一次集約)と小泉首相の自民党総裁選の際の公約(総選挙の公約にもなる模様)や竹中大臣の発言を比較し、両党の経済戦略の違いを考えてみたい。
   まず当面の不況・デフレの基本的原因について、小泉・竹中路線の基本認識は、「九十年代不況の本質はバブルの崩壊でバランスシートが痛んだという供給側の問題であり、外的ショックで需要が落込んだのではない。従って対策は総需要喚起ではなく、主要行の不良債権処理を突破口として金融を再生させ、貨幣乗数を高めることにある」とする(『VOICE』本年十月号より)。
   しかし民主党は、バブル崩壊に伴なう地価、株価など資産価格の暴落でバランスシートが痛んだ影響は、供給側だけの問題ではないと考えている。総需要に対しても、マイナスのショックを与えたとの認識だ。
   例えば、資産価格が暴落した結果資産総額が縮小したことは、消費や投資という需要を減少させる(逆資産効果)。保有資産の評価損の発生は、企業の支出活動全般に悪影響を及ぼす。バブル期に発生した過大な借入を伴なう設備投資や住宅投資は、その後の低成長期に過剰設備、所得と不釣合いな住宅として企業と家計の経済活動を圧迫し、設備投資、住宅投資、個人消費などの需要低迷をもたらしている。
   現状は金融面から経済を立て直せる状態にはないと民主党は考える。銀行の貸出能力回復には時間がかかる。金融政策も「流動性のワナ」にはまり、短期金利をゼロ金利から下へは下げられないから有効性を失っている。
   総需要喚起策は当面財政政策以外にない。しかし竹中大臣は、財政政策の基本はビルトイン・スタビライザーだと言い、税収の落込みによる財政赤字の拡大を許容し、国債発行の増加で埋めれば充分だとの認識である。小泉首相も、三十六兆円の国債発行を伴なう十五年度予算は、緊縮予算ではないと言い張っている。
   しかし予算が緊縮的かどうかは、財政赤字=国債発行の額で単純に計れるものではない。財政赤字=国債発行の拡大が減税や財政支出増加の結果であれば拡張的、増税(国民負担の増加を含む)や財政支出削減によって税収が落込んだ結果であれば緊縮的である。十五年度予算のビルトインスタビライザーは一層の緊縮を避けただけだ。
   民主党の「マニフェスト」は、その第一項目で「景気を回復させ仕事と雇用を生み出します」と述べ、「景気回復・雇用拡大には民間需要を掘り起こし、内需を拡大することが必要です」と主張している。
   具体的には、国直轄公共事業の削減や無駄の排除などで平成十六年度に一・四兆円、十七年度に二・五兆円を捻出し、これを財源として、生活・環境重視の新しい公共事業の実施、個人の借入れ利子控除制度創設、高速道路原則無料化、中小企業対策充実などに使う。そこには、予算の支出総額をやみくもに削減する小泉・竹中戦略とは異なり、あくまでも支出の水準は減らさず、その内容を組み替えて効率を高め、景気と暮らしを向上させようと考えている。
   これらの総需要喚起によって、民主党政権の任期中に失業率を現在の五%台前半から四%台前半以下に下げると公約している。
   この点竹中大臣は「今後一〜二年は税収も低いから財政赤字は拡大する」「どこの国でも失業率は容易に下げられない」(前掲)などと無責任な発言をして予防線を張っている。