道路公団と郵政事業の民営化は疑問 (『金融財政』2003.9.1号)

   小泉総理は、自民党総裁選の公約に道路公団と郵政事業の民営化を掲げ、自分が再選されればこの二つは次期総選挙における自民党の選挙公約にすると言っている。この二つの公約は、国民からみると小泉首相が構造改革の推進をまだあきらめていない証拠と映り、自民党内の道路族や郵政族からみると、党内の多数意見を無視する独裁者の横暴と映る。こうして小泉首相は、正義の味方対党内の抵抗勢力という善玉悪玉の世界を再び演出し、国民の小泉支持率の引上げに成功しているようだ。
   しかし私は、現状を維持しようとする自民党内の抵抗勢力とはまったく違う理由で、この二つの民営化論は疑問に思う。道路公団と郵政事業の適切な改革は、単純な民営化ではない。
   まず道路公団の改革から考えると、現在の乱脈経理の道路公団を廃止すべきことは言うまでもない。高速道路の建設もひとまず凍結すべきである。しかしそのための方法が、民営化だと言うのはいかがなものか。
   経済学を学んだ者にとっては常識であるが、道路は公共財である。道路建設を民営化して市場経済にゆだねれば、最適規模が巨大であるために新規参入が難しく、先発会社による独占が成立してしまう。同じような公共財には、電力、ガス、水道など現在公益事業にゆだねられている分野がある。要するに道路を始めとするこれらの分野は、「市場の失敗」が発生するが故に、市場メカニズムだけに任せることの出来ない公共財なのである。
   従って、道路はその経済性を十分に検討しながら公共部門が税金で建設し、通行料は原則として無料とすべきである。需要調節が必要な首都高速などは、例外的に有料とすればよい。細部をつめる必要はあるが、菅直人民主党代表が提起した高速道路無料化論は、経済学的には正しい方向をむいている。
   次に郵政三事業である。郵便貯金と簡易保険の二事業は、民間の銀行業と保険業と競合している。公共財でもないのに官業が参入し、民業を圧迫しているのだ。従ってこの二分野は分割して株式会社化し、民間に売却すべきである。郵政公社などという形で官業を続けたり、公社のまま民営化すべきではない。
   これに対して郵便事業は、国家独占事業である。しかも、この事業は全国一律同一料金によるサービスの提供であり、公共財の性格を持っている。民営化して市場メカニズムに任せれば、決して同一料金とはならないであろう。
   従って、全国一律同一料金という郵便サービス事業をナショナル・ミニマムとして維持すべきであるならば、これは国営の公社事業として続けるべきである。民間に対しては、参入障壁を撤廃し、市場メカニズムに沿って合理的にやれる範囲の郵便事業をやらせればよい。その結果、ペイするところだけを民間に取られて虫喰い状態となり、国営事業のコストが嵩んでも、ナショナル・ミニマム維持の費用として甘受し、税金で賄うべきである。
   全国に展開している郵便局のネットワークは、貴重な社会的インフラである。これを郵便事業の営業所として使うだけではなく、政府や地方自治体とタイアップし、納税、住民登録、印鑑証明など公共サービス提供のワンストップ・サービス・ステイションにしたらよい。
   以上のように、いま小泉首相が打ち上げている道路公団と郵政三事業の民営化は、見当違いもはなはだしい。国民はこんな改革論にまどわされてはならない