辞職勧告決議は空念仏か (『金融財政』2003.5.12)
衆議院で「議員辞職勧告決議」が全会一致で可決されたにも拘らず、平気でそれを無視している議員が二人居るのをご存知であろうか。鈴木宗男議員と坂井隆憲議員である。二人はいま犯罪容疑で逮捕され、獄中に居るので、衆議院議員として活動していないが、議員歳費(税金から払われる給与)は全額受取っている。
最近、暴力団幹部が役員をしている会社に秘書給与を肩代りしてもらった松浪健四郎議員に対し、野党四党は共同で「議員辞職勧告決議案」を提出したが、多数を占める自公保三与党が本会議上程を認めないので宙に浮いている。
このような状況についてマスコミは、「議員辞職勧告決議」には法的効力が無いので仕方がないのだという解説をして、放っている。しかし、本会議の決議は、衆議院の「院議」である。これに議員が従わなかったり無視したりしてよいのであろうか。
国是とされている「非核三原則」も、昭和四六年の衆議院本会議の決議である。国務大臣の「辞職勧告決議」の場合は、可決されても大臣を辞める法的義務はないが、当人は院議を重視して後日に必ず辞任しており、在任し続けた例はない。どうして「議員辞職勧告決議」という「院議」だけが軽く扱われるのであろうか。一選挙区で犯罪容疑を知らずに選出した選挙民の意思の方が、国民の総意を反映した衆議院の全会一致よりも重いので辞職させるべきではないと言うのか。
実は、戦前は帝国憲法の下で、「院議無視」又は「院議不服従」は、院内の秩序を乱す懲罰事犯と判断して、これを懲罰委員会に付託する取り扱いが行われていた。戦後も、昭和四一年の田中彰治事件のときは、同様の扱いが自民党自身から提案されたが、田中氏は懲罰委員会付託前に議員辞職願いを提出した。この慣行はロッキード事件の時にネジ曲げられ、今日では、院内もマスコミも、「議員辞職勧告決議」には何の効力もないと平気で考えている。しかし、これは再考すべきではないか。
私は衆議院の懲罰常任委員長に任命されて以来、慣例により予算委員会など他の委員会やTV討論会への出席が許されず、中立の立場で院の秩序維持に専念している。そのような中立の立場から考えて、「辞職勧告決議」は「院議」であるから、それに従わないで無視することは、「院の権威」を著しく失墜するものであり、日本国憲法第五八条の「院内の秩序を乱した議員を懲罰することができる」「除名するには出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする」に該当するのではないかと思い、衆議院議長に懲罰常任委員会で検討させて欲しいと申入れた(三月二七日)。これを受けて議長は、この問題を「議会制度協議会」に検討するよう指示したが、与党の多数の壁を前に、検討は遅々として進まない。私は懲罰常任委員会で「院議不服従は懲罰事犯か」をテーマに一般質疑を行おうとしたが、多数を占める自民党理事に反対されて開くことが出来ない。
そこで私は、一国会議員の立場で、ファックスを通じて支援者に、またインターネットを通じて不特定の人々にアンケート調査を行い、前者から二三七、後者から三八〇の回答を得た。それぞれの回答は、議長が懲罰委員会に付託して懲罰(除名)を審議させよが八五%と五六%、議員歳費を供託し有罪の場合は没収せよが一五%と二三%、議会制度協議会の検討結果を待てが〇%と二〇%であった。
さて読者はどうお考えであろうか。