増益予想下の株安 (『金融財政』2003.3.27)

大方の民間経済研究所の予測によると、三月末に終わる平成十四年度の上場企業(金融を除く)の決算は数十パーセントの大幅増益に転じる。また来年度(十五年度)も、増益率は低下するが増益持続と予測されている。
増収率はほぼ横這いか僅かのプラスと予測されているので、この原因は必ずしも景気の好転予測に基くものではない。割高な四〇歳台、五〇歳台の男子常用雇用を整理して割安な女子や若年の臨時雇用に切替えたり、昇給やボーナスを抑えたりするリストラや、無駄な不動産の売却や設備の廃棄などで有利子負債を圧縮した結果、損益分岐点が大きく下ったためだ。
これは企業体質の改善である。それによって二期連続の増益が見えて来れば、普通は株価が上がる。増益に伴って配当が好転すれば、低金利下で株式の配当率が相対的に有利になり、株式の需要が増えるからだ。
ところが株価は下っている。年度末を控えているのに、三月七日にバブル崩壊後の最安値を更新し、その後も低迷している。これは日本経済の先行きが極めて不透明なため、二期連続増益の予測を信じて株式を購入するリスクが極めて高いからである。
リスクが高い理由は二つある。一つはイラン情勢の先行きが読めないことである。フセインが亡命するのか戦争が始まるのか、戦争の場合二〜三週間の短期で片付くのか泥沼化して長期になるのか。これによって、世界と日本の経済に対する影響があまりに大きく違うのでリスクが大きい。
フセイン亡命や戦争の短期終了の場合は株価にはプラスの筈である。何故なら原油価格が反転下落し、復興需要が出るからだ。しかし戦争が長期化すると原油価格は上り続け、戦費負担が嵩んで財政の圧迫要因となるので、株価にはマイナスだ。このプラスとマイナスの差が違い過ぎるので、恐くて株式に手を出せないのだ。しかし、これは時間が解決する。時の経過と共に事態は明らかとなり、リスクは低下する。リスクが少なくなれば増益予想は一定の株価押上げ効果を持つであろう。
もう一つのリスク要因の方がたちが悪い。それは、日本政府の経済政策が今後どうなるかである。小泉政権が今の政策を変更しないのであれば、景気は停滞を続けるであろう。企業は増益でもその裏で雇用と賃金にシワが寄り、消費は弱いままだ。増益に伴なうキャッシュ・フローの増加は前向きの事業拡張に使われず、後向きの不動産損切り売り、設備廃棄、借入金返済に使われる。財政面からは国民負担の増加、公共投資の削減という負荷がかかり続ける。
しかし、早晩訪れる解散・総選挙を考えると、自民党はこのような小泉不況に手をこまねいては居られまい。九月の総裁選に向けて小泉降しが激化しよう。その中心勢力は、積極政策への転換を求めている。果して日本の経済政策は、不況放置の小泉改革が続くのか、積極財政への転換が起きるのか、さっぱり読めない。しかしこの両者によって日本経済の先行きは大きく異なる。つまりは株式投資のリスク(成否の差)は極めて大きいのである。
この二つ目のリスクは、最初のリスクであるイラン情勢よりも深刻である。何故なら、イラン情勢の経済に対する影響は、戦争の期間に依存するのであと一か月のうちに分かってくるが、日本の政治情勢はあと半年近くは分からない。それだけリスクの大きい状態が続くということだ。政府与党の罪は深く、市場の様子見は続く。