日本銀行の株式買取り (『金融財政』2002.9.30)

 日本の銀行は「銀行株式保有制限法」により、二〇〇四年九月までに株式保有額を自己資本の範囲内に減らすよう義務付けられている。保有株式が自己資本の範囲内であれば、株価が下落した時の損失に耐えられるという考えから作られた制度である。

 本年三月末現在、大手銀行が保有する上場株式はまだ二五・六兆円もあり、自己資本一七・三兆円を八・三兆円も上回っている。従って最近の株価急落によって発生した含み損や、将来更に株価が下って発生するかも知れない含み損は、自己資本を大きく減価させることになる。

 株価下落によるこのような自己資本不足の発生は、不良債権を処理する能力の減退にほかならないし、極端に進めば銀行自体が債務超過に陥って破綻する。そうなればシステム危機である。従って、自己資本を超過する株式保有(大手行の場合八・三兆円)は二〇〇四年九月を待たずに早く売却し、資本不足発生のリスクを小さくし、不良債権処理を早めて欲しいと考えられている。しかし、銀行が一斉に大量の株式を売却すれば株価が更に下がり、含み損が更に拡大して、システミック・リスクが高まるかも知れない。

 このようなジレンマを解決するため、今回日本銀行は、自己資本超過額を限度に、株式を買上げることにしたのである。つまり銀行が負っている株価下落による資本不足発生のリスクを、日本銀行が肩替わりしようというのだ。株価が下った場合の含み損に備えて価格変動準備金を積まなければならないが、準備金は日本銀行の利益の範囲内ということになる。恐らくそれは年五千億円程度であろうか。その場合、値下りを最大五〇%と見れば年間一兆円の購入が限度ということになる。もう少し大きくしたとしても、一・五兆円を超えるのは無理であろう。

 大手行だけ考えた場合でも、八兆円を超える超過株式を、二〇〇四年九月までの二年間に、日本銀行が二〜三兆円買上げたとして、それだけで銀行の自己資本不足発生のリスクが大きく軽減し、その分不良債権の処理が進むであろうか。私は疑問に思う。従って今回の措置の効果は、「やらないよりもまし」かなという程度にとどまるのではないか。
他方、この措置には三つの副作用がある。

 一つの副作用は、今回の措置をPKOと誤解して、無用の政策不信が起きていることだ。

 二つ目の副作用は、準備金が不十分であったり、国際的な説明が不十分であったりすると、日銀券や円の信認に響くことだ。この措置の発表以来、円相場が少し弱いのが気にかかる。

 三つ目の副作用は、株式購入分だけ他の買オペ対象資産、例えば国債の購入額が減るので、その心理的影響で、長期国債の先物価格が崩れ、利回りは一・二六%前後から一・三一%にハネ上ったことだ。

 今回の日本銀行の措置は、銀行のリスクを日本銀行が肩替りするという点で、リスクを肩替りしない既存の「銀行等保有株式取得機構」の限界を乗り越える措置である。日本銀行が「無いよりまし」程度の効果しかないリスク対策を敢えて打ったのは、それによって銀行システムに内在するリスクの深刻さを政府にも理解してもらいたいからではないか。そうだとすれば、政府が不良債権処理を進めるためのリスク対策(例えば公的資本注入)をここで本気でとらないと、日本銀行の「蛮勇」は徒労となってしまうであろう。