景気底入れ宣言と株安 (『金融財政』2002.7.4)
政府が「景気底入れ宣言」を出した五月中頃から、皮肉な事に株価がダラダラと下がっている。六月十四日には日経平均株価が一万一千円台を割って一万円に接近している。またTOPIXは六月二六日に一〇〇〇の大台を割った。 株価下落の根本的な理由は小泉政権の経済政策に対する不信であると思う。 世界的に電子部品の在庫調整が完了し、米国とアジアの景気が緩やかな回復過程に入ったため、日本の対米・対アジア輸出が本年に入って回復し、鉱工業生産は5四半期振り、実質GDPは4四半期ぶりにマイナス成長からプラス成長に転じた。
しかし現在は輸出の伸長が内需回復に火をつけるメカニズムが弱い。円高で輸出にブレーキがかかるし、またグローバルに工場を展開している輸出産業が、国内の雇用や設備投資を増やすとは限らないからである。従って、この時期に経済政策によって内需回復に火を付けない限り、輸出主導型の景気底入れは「線香花火」型で終わってしまう。市場はそれを心配しているのである。
ところが、現実には、小泉総理がサミットに持っていった第二次デフレ対策は、景気刺激よりも財政再建の色彩が強いものになってしまった。将来の行政改革による歳出削減を財源に、いま減税をするならば、景気刺激の効果があるし、構造改革にも沿っている。ところが、来年一月からの減税の財源として来年度中に歳出を削減し、同時に増税をやるというのである。これでは、橋本内閣の失政と同じ財政再建至上主義であり、政策不況の引き金となってしまう。
小泉内閣の景気認識の甘さと経済戦略の誤りの他にも市場の失望を誘う政策がある。
政府・与党は、株価対策として銀行窓口における株式販売を言い出した。これは、現在の株式投資家の心理を全く理解していない事を、自ら告白するようなものだ。今株価が弱いのは、株式の購入が不便だからではない。株式購入の窓口をいくら増やしても、株価に好影響など出る筈がない。
有効な株価対策は税制面にある。配当課税の三五%を利子課税の二〇%と同じかそれ以下に引下げ、投資を貯蓄よりも優遇する姿勢を鮮明にする事がその一つである。同時に、株式「投機」ではなく、株式「投資」を優遇する姿勢を鮮明にする為、個人が五年ないし十年以上保有した株式を売却する時には、ドイツのように、株式譲渡益を非課税とすることである。
もう一つは、来年一月に迫っている株式譲渡益の申告課税一本化の時期を、景気回復が軌道に乗るまで繰り延べることである。今株価が弱い理由の一部には、長期間保有して含み益のある株式を個人が売り急いでいる事にある。
最後に、米国の株価下落も日本の株価に対して悪影響を及ぼしている。
昨年の七〜九月期を底に米国景気は回復し始めたが、V字型回復かも知れないという期待は完全に崩れた。設備投資は年末まで弱いうえ、頼みの綱の個人消費も不動産価格の頭打ちと共に負の資産効果で崩れるのではないかという不安が出ている。更にエンロン事件以降、米国企業の業績そのものに市場は疑問を持ち始めている。これらは、直接(米国株価下落との連動)、間接(日本の輸出の先行き不安)日本の株価に響く。先行性の強い株価が示唆するとおり、輸出主導の景気底入れの次が景気回復ではなく、景気沈滞である事がはっきりするのは、本年の秋から暮にかけてはないか。