納税者意識高揚の道 (『金融財政』2002.4.11)

 日本人ほど所得課税に関する納税者意識の薄い国民は珍しいのではないか。これは個人所得に対する総合課税の仕組みが複雑すぎる為だと思う。課税所得合計額からの様々な控除、所得の種類によっても異なる控除、税額そのものからの控除などがあるので、普通の人が自分の所得課税額を計算するのは容易な事ではない。このため、自分の所得課税がどのようにして決まっているかを知っている人は少ない。

  それでもうまく行っているのは、給与生活者の所得課税額を雇用主が計算して、給与から源泉徴収して呉れるからだ。その上年末には、雇用主が最終的な年末調整の計算までして呉れて源泉で追加徴収あるいは返戻して呉れる。

 従って一般の給与生活者は、自分の所得税・住民税がどのような計算で決まっているのか全然知らなくても大丈夫だ。ましてや源泉徴収された後の給料袋を渡される主婦は、所得税・住民税を納めているという意識さえ殆どない。それでいて主婦は、消費税には敏感である。買い物をするたびに納税意識を持つからだ。

 同じ事は社会保険料についても言える。自分の年金保険料、医療保険料、介護保険料、失業保険料がどのようにして計算されたのか知っている人は、まず居ないのではないか。ましてや主婦は、社会保険料が差引かれている事など、まったく意識していないのが普通だ。

 しかし、直接税中心で社会保険制度も発達している日本で、給与生活者やその被扶養者が、直接税の納税意識や社会保険料の支払意識が希薄で、間接税の納税意識が強いのは不自然である。そこに付け込んで、税金や社会保険料の無駄使いが行われるのではないか。

 税金や社会保険料の使い道を厳しく追求する個人の納税者意識・保険加入者意識は、個人所得に対する課税や保険料の計算を自分で行い、納税や保険料支払いの痛みを感じることから始まるのである。そのためには、自分の所得税、住民税、保険料を一般の国民が自ら計算できるように簡素化し、雇用者による源泉徴収や年末調整を廃止し、自分で申告納税や保険料支払いをするように改めるべきである。

 それには、まず複雑な所得課税について、思い切って各種の控除を廃止する事だ。その上で次のような改正を行う。

 第一に、緒控除を廃止すると課税最低限の所得が下って増税となるので、税率を大きく引下げ、所得税・住民税の合計で五%、十五%、二五%の三段階に簡素化する。五%の最低税率は社会への参加料として全員が払い、その代わり全員が納税者意識を持って税金の使い道を厳しく監視する。

 第二に、扶養控除、身障者関連の控除などは、いずれも手当てとして国が支給する。控除であれば、課税最低限以上の所得のある人しか恩恵に浴せないが、手当てであれば所得が低い人でも確実に恩恵に浴せるので、公平である。

 第三に、給与所得控除など所得類別の諸控除や住宅ローン控除などは、給与所得者の経費や支払金利を課税所得から差引いてネットの所得に課税する考え方に改める。

 以上の三点を改める形で所得税・住民税を簡素化し、自分で計算して申告納税するようにするならば、日本国民は所得課税について消費課税と同じように敏感になるであろう。その上、社会保険料の計算も自分でやるようにする。そうすれば、納税者意識と社会保険加入者意識は高まり、税金や社会保険料の無駄使いを厳しく監視するようになるであろう