小泉改革が景気悪化の元凶 (『金融財政』2002.3.4)
朝日新聞社が二月二日、三日に行った全国の世論調査(有効回答二千四百十四人)によると、小泉首相が構造改革を進めることで、更に景気が悪くなっても仕方がないと思う人は二十五%、更に景気が悪くなるのは困ると答えた人は七〇%に達した。日本国民の大多数は、戦後最高の失業率、戦後最大の企業倒産に悩む現在の不況に危機感を抱き、これ以上の景気悪化には耐えられなくなっている。
この現状について小泉首相は、二つの言い訳をしている。一つは、小泉改革は始まったばっかりなので、当面の不況はそのせいとうよりも、むしろITバブルの破裂など米国の景気後退によるものだ、と言う逃げ口上だ。
もう一つは、構造改革は痛みを伴うので、今年はゼロ成長、来年は僅かのプラス成長、更来年にはデフレから脱却して持続的成長が始まる、というものである。しかし、あと二年も日本はこの不況に耐えなければ、改革は出来ないのであろうか。
私はそうは思わない。小泉首相の二つの言い訳は、いずれもまちがっていると思う。
小泉改革の内容は、日々のマスコミ報道で既に明らかであるし、具体的政策は現在の通常国会に提出された来年度予算と関連法案で分かっている。その内容を知った上で、株価が一段と下落し、バブル崩壊以降の最安値を更新したのである。市場の専門家や内外の投資家は、小泉改革の内容では当分景気は悪化するばかりと考えているので株を売ってくるのだ。この景気悪化は、小泉改革のせいである。
構造改革は必ず痛みを伴うので、一〜二年は我慢しろと言うのも間違いである。正しい構造改革は、日本の仕組みを「官主導」から「民自立」へ、「閉ざされた」システムから「開かれた」システムに変え、民間や地域社会の活力を取り戻して経済と暮らしを立て直すことである。
ところが小泉改革は、仕組みには一切手を着けず、行き当たりばったりの後始末のように国債発行と公共投資を削減し、不良債権の処理を急ぎ、国民の医療費負担を引き上げたりしている。このような後向きの抑制的な改革では、景気が悪くなるのは当たり前である。
国債発行や公共投資を削減するのであれば、同時に他方で、規制緩和、政府事業の民間開放、行政改革による歳出削減を財源とする所得減税などによって民間のビジネス・チャンスを創り、やる気を引出さなければならない。それが、「官主導」から「民自立」へ仕組みを変えることであり、景気回復につながる。
不良債権の処理を進めるのであれば、同時に他方で、株や不動産の取引を活発化させるための税制改革(配当課税や長期保有株売却益課税の引下げ、不動産取得税や登録免許税の廃止など)を行い、民間の資金調達を容易にしなければならない。間接金融から直接金融へ仕組みを変えることが出来れば、金融面からも景気は立ち直る。
医療費については、カルテ、受診票、レセプトを一枚の電子カードに収めて国民一人一人が保有する形に仕組みを変えれば、重複診療、重複投薬の無駄がなくなるので、医療費全体が二〜三割圧縮され、国民の負担率は逆に引き下げられるであろう。そうすれば減税と同じであるから国民の消費購買力が高まり、景気に好影響が及ぶ。
私はこのような前向きで創造的な改革を主張し、改革と景気の両立を目指している。