羊頭狗肉のデフレ予算 (『金融財政』2002.1.24)

 平成十四年度の政府予算案について、政府は「改革断行予算」「財政規律予算」等と自画自賛しているが、果たしてそうか。

 まず公共事業費を見ると、事業別のシェアはコンマ以下の変動しかなく、省庁の縦割りシェアは従来のままだ。 構造改革断行の予算ならば、省庁の長期計画に沿った地方プロジェクトに事業補助金をつける補助事業の制度そのものを廃止し、@事業補助金は地方自治体に一括交付して使途は自治体に任せる、A政府予算には中央省庁直轄の国家プロジェクトのみを計上する、ぐらいのことがあって然るべきである。これでは政官業癒着の利益誘導政治の温床となってきた在来型予算と変わりない。

 医療制度についても、社会保険制度を前提とする仕組みはそのままで、ただ診療報酬引下げや高所得を持つ老人の自己負担上積みによって医療予算の伸びを抑えているだけだ。 改革断行予算と言うならば、社会保険制度の仕組みそのものを廃止し、@保険料ではなく消費税に財源を求め、またA電子カルテ、電子リセプト、電子受診票を一つの電子カードに収めて国民一人一人に持たせ、診療の重複を排し、情報伝達の効率化を計り、医療費全体を圧縮すべきである。

 特殊法人については、補助金の廃止などによって一・一兆円の歳出削減を行っているが、今後については独立行政法人への移行という看板の掛け変えと、二〇〇三年までに検討するという問題の先送りが行われている。これではシワを全部十五年度以降の予算に寄せたもので、ここでも眞の改革は進んでいない。

 税制改革に至っては、改革がまったく前進していないばかりか、改革に逆行する措置がとられた。それは、連結納税に対する附加税の新設である。グループ内に赤字企業を含まない優良企業グループは、連結納税を行うと附加税分だけ損をする。これでは企業の分割再編とグループ化によって経営を効率化し、黒字を増やそうという経営構造改革を阻害することになり、まさに改革逆行税制である。

 最後に、国債発行三〇兆円の上限を守り、財政規律を維持した予算だという話は、まったくのごまかしである。

 平成十三年度の第一次補正予算では、財政法によって国債整理基金に繰り入れることが決まっている前年度剰余金の二分の一を、特例法によって繰り入れせず、補正予算の財源に使ってしまった。この時点で十三年度の国債発行は三〇兆円を一千二百億円ほど突破している。 次にこれから提出される平成十三年度の第二次補正予算では、政府保有のNTT株を二兆円以上売却して財源に充当し、国債は発行しないことにしている。しかし会計上は資産売却と債務増加は同じ事であり、ここでも財政節度を破るごまかしによって、三〇兆円の上限を守っている。

 最後に平成十四年度予算案では、外為特別会計など特別会計の操作によって、いわゆる"隠れ借金"を少なくとも約一・七兆円は捻出している。ここでも国債発行三〇兆円の枠を形だけ維持しているに過ぎない。

 以上のように、平成十四年度予算案は改革断行予算でもないし、財政規律予算でもないが、その悪影響は大きい。@改革の欠落で日本経済は立直りの切っ掛けをつかめず、A将来に財政赤字の負担を先送りし、B一般歳出を十三年当初予算比マイナス二・三%、十三年第二次補正後予算比マイナス十・九%削減し、減税も行わないことによって目先のデフレ効果は強まる。これは羊頭狗肉の単なるデフレ予算だ。