改革と不況のジレンマを解く (『金融財政』2001.12.6)
景気後退が一段と深刻になり、先行き底入れの見通しも立っていない。それにも拘らず小泉首相に対する支持率が下がらないのは、「改革」に対する国民の期待が極めて大きいからであろう。しかし、三年前の橋本不況の時よりもはるかに激しいテンポで落ち込んできている今の日本経済を前にして、「小泉改革」の二大公約である「不良債権の三年以内処理」と「国債発行の三十兆円以下」は、共に難しくなってきている。
不況の深刻化に伴なって、普通の中小・中堅企業でも銀行債務の返済や利払いが滞り始めているが、これを不良債権として厳密に査定し、早期に整理すれば、ますます多くの企業が倒産に追い込まれるであろう。本来不良債権の早期処理は、バブル期に無駄な投資をした一部のゼネコンや流通などの大企業や、護送船団方式の下で無責任な甘い査定をしてきた金融機関を早く整理せよという話であって、十年間の経済停滞と今始まった二年連続マイナス成長で経営が一時的に悪化している中小・中堅企業の借金まで、不良債権だと言って整理すべきではない。銀行はむしろ、そういう中小・中堅企業を景気が回復する迄支えるべきである。
国債発行三十兆円以下という公約も、本来は地方の箱型公共事業や特殊法人補助金などの無駄を削減する為の重石としてセットしたものだ。景気後退で税収は二・五兆円程落ち込んでいるが、三十兆円の国債発行枠を守るために更に二・五兆円の歳出削減を追加したのではたまらない。不況に伴なう税収減が歳出削減を呼び、それが更に不況を深刻化していま一段の不況と税収減を呼ぶという形で、デフレ・スパイラルに陥ってしまう。
デフレ・スパイラルの危険性は、不良債権早期処理についてもある。不況で一時的に経営が悪化した企業への貸し出しを、厳密な査定で不良債権と認定し、三年以内に処理しようとすれば、その企業を倒産に追いやって一段と不況を深刻化し、そこから又新しい不良債権が発生して来るからだ。
私は本会議の代表質問や反対討論でも、委員会の質疑でも、小泉首相や塩川財務相にこのことを重ねて指摘しているのだが、分かって頂けないようだ。そうしている間にも、日本経済は坂道を転がり落ちるように悪化し、国民の暮らしは益々圧迫されているというのに。
私は改革と不況のジレンマを解くには、次の三つが大切だと思いる。@不良債権の早期処理はゼネコンや流通など問題の大企業に限定し、今の不況で悪化した不良債権の処理は急がない。A経営改革による企業再生を構造改革の最優先課題とする。B不況に伴なう税収減は三十兆円の枠外で処理する。
以上の三大方針によって、何よりも企業のバランス・シート改善とビジネス・モデル改革による経営再建を図っていけば、やがて企業投資の立ち直りによる景気回復によって、中長期的に不良債権も減り、税収の回復で国債発行を無理なく減らすことが出来る。小泉首相も本気で改革を成功させたいなら、経済の仕組みを規制撤廃や税制改革で変えることが構造改革の本筋であることを悟り、目先の不良債権早期処理や国債発行三十兆円の上限にいつまでもとらわれないことだ。キャップをかぶせるのは国債発行額や財政赤字ではなく、行政改革で無駄を排除すべき財政支出である。このことにも早く気付いて欲しいものだ。