自衛隊の海外派遣は正しいか (『金融財政』2001.10.25)

 湾岸戦争のときに自衛隊を派遣しなかったため、日本は世界中から批判されたので、今回は自衛隊を海外に派遣するのだという政府・与党の言い分は、本当に正しいのであろうか。
 私は現行憲法を始めとする日本の法体系では、以下の三つの場合においてのみ、自衛隊による武力の行使が認められている、と考える。

 @日本に対し、日本人の生命・財産を脅かすような直接的な侵略(急迫不正の侵害)があった場合には、たとえ憲法第九条で武力の行使が認められていなくても、全ての国が有するいわば自然権として、個別的自衛権を発動し、武力で撃退できる(国連憲章第五十一条もこれを認めている)。
 A日本の周辺において、@の事態に立ち至る恐れのある事件が発生した場合は、@の事態を未然に防ぐため、個別的自衛権を発動し、武力で撃退できる(周辺事態法)。
 B国連の決議(安保理又は総会)において世界平和の秩序を守るために武力の行使が容認された場合(国連憲章第四十二条)は、日本国憲法の前文における「集団的安全保障」の考え方と日本国憲法第九十八条の国際法規(この場合は国連憲章)遵守義務に基づき、国連軍あるいは多国籍軍に自衛隊が参加できる。

 湾岸戦争は、イランがクエートを侵略したこことに対し、世界平和の秩序を守るため、国連が武力行使を認める決議をした。これは、上記のBのケースである。従って日本の自衛隊は、日本の法体系の下で、多国籍軍に参加できたのに、しなかった。政府・自民党は@とAのみを認め、Bを認めないからである。だから世界から笑われ軽蔑されたのである。
 今回の同時多発テロは、テロ組織の米国に対する攻撃である。従って米国は、個別的自衛で反撃する、国連決議はいらないと言っている。NATO諸国は米国との集団的自衛権に基づき、米軍に協力すると言っている。
 日本の場合は、どういう法的根拠があるのか。日米安保条約には「米国への攻撃は日本への攻撃と認める」という集団的自衛権の規定はない。そもそも日本国憲法第九条は、そのような集団的自衛権を認めていないというのが、政府・自民党の一貫した解釈である。

 同時多発テロは日本が直接侵略された@のケースや、日本の周辺でその恐れが生じたAのケースではない。とすれば、今回はBのケース、すなわち国連決議がある場合以外には、自衛隊を派遣することが出来ないのではないか。しかし、米国は国連決議は要らないと言っている。そうなると、政府・与党は、憲法第九条の解釈を変えて、集団的自衛権が認められていると言わない限り、参加は許されない筈だ。
 そこで与党三党は、憲法を始めとする法律には一切触れず、「わが国として可能な限りの協力」という言い方を押し通してきたのである。
 そのうえで政府・与党は、食糧などの物資輸送を自衛隊にやらせる「対米協力法」を今国会で成立させた。しかし軍隊は食料が無ければ戦えないのであるから、食糧の輸送は武器の輸送と同じであり、武力行使と一体化した戦争協力である。そもそも国際的には、軍隊を動かすこと自体が武力行使と認められている。それを国連決議がなく、憲法第九条の解釈変更もなしに実行しようとしているのだ。

 これは、超法規的な集団的自衛権の発動であり、法治国家として極めて危険な行為である。だから自由党は、この対米協力法に反対したのである。