景気刺激的な構造改革を (『金融財政』2001.7.30)
「構造改革は痛みを伴う。例えば不良債権を処理すれば、借り手が倒産し失業が発生する」ということが、当然の事のように語られている。小泉首相もよくそう話す。しかし、不良債権処理と構造改革は違う話ではないのか。
不良債権処理は、過去のバブル崩壊や不況のツケの後始末であって、景気循環的な話だ。これに対して構造改革は、経済の仕組みを変える話である。金融に則して言えば、例えば金融業態間の垣根や金融業と他業種との間の垣根を取払って、参入を自由化する事が構造改革である。金融業の中味に不良債権が沢山あるかどうかは、構造の話ではない。
不良債権処理が構造改革の一種だと錯覚されるのは、不良債権も現在の経済構造も、共に景気の持続的回復の妨げとなっているからであろう。しかし、不良債権は消し去れば話が終るのであるが、経済構造は消し去るのではなく、改革するのである。そこに両者の根本的な相違がある。
消し去る事を本質とする不良債権処理は、痛みだけを伴う。しかし、構造改革は痛みと同時にチャンスを生み出す。例えば、規制撤廃は規制で守られていた人々には苦痛であるが、新たに参入のチャンスを得た人々には喜びである。地方分権は、権限を失って用なしとなる中央官僚には苦痛であるが、自主的に地域の問題を決められる地方自治体や地域住民にとっては喜びである。
要するに構造を改革するということは、在来の古い部門にとっては苦痛であるが、発展する新しい部門にとっては喜びなのである。それを不良債権処理とごっちゃにして、構造改革が苦痛だけを伴うように言うのは間違っている。これでは国民が次第に不安に陥り、出来る改革も出来なくなる。
自公保連立政権の失政により、景気は本年初めから後退局面にある。今後失業率は五%を越えて上昇していくであろう。その時に「苦痛に耐えろ、苦痛に耐えろ」といい続けていたのでは、出来る改革も出来なくなる。
小泉首相の言い分を聞いていると、構造改革と景気対策は絶対に両立不可能のように聞こえるが、本当にそうか。私は、小泉首相が間違った思い込みをしているように思う。
例えば、規制撤廃で新たなビジネス・チャンスを生み出す構造改革は、景気刺激的である。民業を圧迫している官業を株式会社化し、株式を民間に売り出すのも景気刺激的である。民業圧迫がなくなるうえ、株式を取得して経営に参画する人々にとっては、新しいビジネス・チャンスとなるからだ。ベンチャー支援の税制も、構造改革であると同時に景気刺激策にもなる。
秋から冬にかけて景気が一段と冷え込み、景気対策の是非、補正予算の是非などが大きな問題になるのではないか。その時、構造改革を先送りして景気対策を実施するという発想ではなく、構造改革の中で景気刺激にも寄与する対策を優先的に取り上げるという発想が大切である。
具体的には、特殊法人や政府保有の土地、建物(廃校の校舎、物納土地など)を民間に売却し、規制撤廃でその使途を自由化した上、売却代金は都市再開発(防災、環境維持、交通網整備など)や所得減税に使えば、財政赤字を拡大せずに大きな景気刺激策になるであろう。