株式譲渡益非課税は愚策 (『金融財政』2001.6.18)
小泉内閣は、将来の証券税制についてのビジョンを示すこともなく、株式譲渡益を一〇〇万円まで非課税にするという租税特別措置を時限的に実施しようとしている。これは税制全体に極めて大きな歪みを生み出すことになろう。
課税所得からの控除(非課税)は、基礎控除にしても、扶養控除にしても、三十八万円である。それにも拘らず、何故株式売却益(一種の不労所得)についてのみ、一〇〇万円という多額の控除(非課税)を認めるのか。
また、パートタイマーの非課税所得の限度額は一〇三万円であるが、主婦や高齢者がパートタイムの労働で得る勤労所得と、所得水準や資産水準が比較的高い人が「濡れ手で粟」で得る株式譲渡所得について、ほぼ同額の一〇〇万円の非課税限度を設けるというのは、誰が考えても不公平な話ではないか。
そのうえ、このような非課税措置を講じても、経済活性化のマクロ的な効果は何も発生しないであろう。この減税額は十三年度で四〇〇億円、十四年度で九〇〇億円である。株式保有者にこの程度の減税を実施したからといって、消費が上向く筈がない。そもそも十三年度の国民負担額は、社会保険料(介護保険料、雇用保険料など)の引上げで三兆円近い増加となる。このデフレ効果に比べれば、四〇〇〜九〇〇億円の減税の効果はネグリジブルであろう。
また、この減税措置によって、個人投資家が株式市場に誘い込まれ、株価が上昇するという政府・与党の考え方も極めて疑わしい。この措置は一年以上保有した株式を対象とし、十五年三月までの時限である。従って、今株式を買ったとしても、この減税措置の恩恵にあずかれるのは十四年七月から十五年三月までの九ヶ月間である。しかも、その時までの一年間に買った株が値上がりし、一〇〇万円儲かっていなければならないのだ。こんな小さなチャンスを狙って、株式市場に誘い込まれてくる個人投資家が大勢居るとは、とても考えられない。
それよりも、既に一年以上株式を保有して含み益を持っている個人投資家が、その含み益を非課税で実現するため、十三年中と十四年中に売ってくるのではないかと思う。その結果、株価には下落圧力がかかるのではないか。
現に、小泉内閣の発足で一万四千円台まで上がった日経平均株価は、その後ジリジリと低下し、六月五日(火)には一時一万二千円台に入った。
結局のところ、小泉政権と自民党を始めとする与党三党は、将来の株式譲渡益課税と配当課税について、@源泉課税とするのか申告課税とするのか、またA総合課税とするのか分離課税とするのか、更にB税率は利子課税に比べて高くするのか、等しくするのか、低くするのか、確りと検討することもせず、非課税枠でも作れば株価が上がるのではないかという安易な思い付きでこの措置を打ち出したのではないか。この減税枠を時限措置としていること自体、その場しのぎ、場当たり、先送り的な手法である。
これは、経済の構造改革とは無縁であり、税制に歪みを生み出す改悪措置である。
将来の株式譲渡益課税と配当課税については、最適課税理論に基づいて分離課税とし、その税率はリスクの存在、配当二重課税などを配慮して、利子課税の二〇パーセントよりも低くすべきであろう。
その上で、現在のみなし利益に基づく源泉分離課税を廃止し、申告分離課税に一本化すべきではないか。