小泉内閣のアキレス腱は景気 (『金融財政』2001.5.14)
小泉内閣に対する国民の支持率は、発足直後のご祝儀相場とはいえ、記録的な高水準である。ここ数年間、出口のない閉塞感に悩み続けてきた国民感情が、一条の光を見付け、爆発的人気となったようである。
小泉首相は、自分の内閣を称して、構造改革なくして景気回復なしという「改革断行内閣」であると言っている。また内閣の顔触れを見ても、首相を除く17人の閣僚のうち、女性が5人、民間人が3人というのも、前例がない新鮮さを与えている。小泉氏は閉塞感の打破と改革を求める国民感情に訴える事に成功したと言えよう。
しかし小泉内閣のアキレス腱は、景気問題にある。小泉首相は初の記者会見(4月27日)の際、原稿も見ずに環境問題・防衛問題・行革問題などについて持論を積極的に述べていたが、「景気回復と構造改革をどのようにして両立させるのか」と問われた時だけは、一切持論を述べず、「塩川財務相と竹中経済財政相に任せる」と「丸投げ」の姿勢をあらわにした。「構造改革なくして景気回復なし」と格好良くスローガンを述べている間はよいが、具体的な政策論となると、小泉首相には持論がない。
丸投げを受ける立場にある塩川財務相は、景気問題の素人ではないか。新聞報道によれば、ワシントンのG7後の記者会見(4月28日)において、「景気は最近底を打った感じがする。春から6月ごろにかけて持ち直し、回復して行くと思う」と述べている。鉱工業生産指数が本年1〜3月に前期比マイナス3.7%の大幅な、それも74半期振りの下落となり、4月と5月の生産予測指数はいずれも前月比マイナス0.8%の低下となっているのを、どう説明するのか。
塩川財務相は、官僚達の希望的観測に基づく間違った原稿を棒読みしたのであろう。この調子では前途が思いやられる。
竹中経済財政相は立派な経済学者である。しかし学者は、中長期的な構造問題には強いが、短期の景気問題には不慣れである。塩川=竹中コンビで景気対策に弱い小泉首相を支えられるのか、大きな不安がある。
小泉内閣が間違った景気予測を述べたり、あるいは「景気より改革」というスタンスを取っている間に、現実の景気がどんどん悪化して行くと、内閣支持率は低下して行くであろう。 そうなると、参議院選挙を控えた自民党内が収まらないのではないか。
衆議院本会議における首班指名選挙の際、普通なら首相予定者が投票のために登壇すると、与党席から大きな拍手が起きるものだ。しかし4月26日の首班指名の際は、小泉氏が登壇しても拍手一つ起きなかった。自民党も公明党も、白けた顔をして見ているだけであった。
つまりこの事は、小泉首相は自民・公明の多数派の衆議院議員から、本当の支持を受けていないということである。彼等は、都道府県の予備選挙の結果、小泉氏が圧倒的な勝利を収めたので、国民世論を逆なでしては不利と考え、やむを得ず小泉氏を支持しただけなのである。
従って、自公保の議員の多数は、小泉政権は短命であって欲しいと思っているようだ。少なくとも、従来の主流派であった橋本派と江藤・亀井派の自民党議員と、自公保連立に冷ややかな小泉氏に不安を抱く公保両党の議員はそうであろう。彼等はいま、予想外の小泉人気と高い支持率に戸惑っている。 しかし、景気問題で小泉内閣が失敗した時は、野党は勿論のこと、与党内部からも強い小泉批判が出てくるであろう。