平成十三年度予算案は落第 (『金融財政』2001.2.22)
国会で平成十三年度予算案の審議が進んでいる。この予算を一刻も早く成立させることが、何よりの景気対策だという説もあるが、果たしてそうであろうか。昨年十二月中頃、予算案の内容が次々と報道される中で、六営業日連続して日経平均株価が累計一七〇〇円下落し、一万三千円台になったことを忘れたのか。いまだに株価が一万三千円台で低迷しているのは、市場がこの予算案に期待していないためではないか。
政府はこの予算案で、景気、構造改革、財政健全化の三つに配慮したと言っているが、いずれの方向もまったく不十分だと思う。
まず景気対策として今何よりも大切なことは、消費を刺激することである。設備投資と輸出にリードされた緩やかな回復は、輸出が減少に転じ、設備投資も機械受注などから見て先行きの鈍化が必至の情勢となってきたので、危うくなってきている。昨年七〜九月期のマイナス成長、十〜十二月期の鉱工業生産の増勢鈍化、本年一〜三月期の大企業製造業の「業況判断DI」の悪化予想(日銀短観)などがそれを示している。
とくに、消費という三つ目のエンジンに点火しないうちに、第一のエンジン(輸出)が逆噴射を始め、第二のエンジン(設備投資)の出力が低下しようとしている。普通は輸出と設備投資のリードで製造業の収益が回復すれば、雇用増加や賃金上昇で個人所得が増え、第三のエンジンである消費に点火する。今回それが起こらないのは、回復した企業収益が借入金の返済、不良資産の損切り売り、不良債権の償却など後向きの敗戦処理に使われているからだ。それが経営のリストラであり、同じリストラ戦略の下で雇用や賃金は抑制されているのである。
従って、平成十三年度予算に求められる景気対策は、可処分所得を直接的に増やす政策である。例えば、本年度にスタートしたばかりの介護保険制度は、消費税方式への転換を展望して、取り敢えず十三年度の介護保険料の徴求を中止すべきである。平成十三年度の雇用保険料引き上げも止めるべきだ。これらの社会保険料の引上げ中止によって、十三年度予算案による国民負担率の〇・四%ポイント上昇が防がれ、二・四兆円の所得増税と同じデフレ効果が消える。
これは国民負担の増加を防ぐ政策であるが、更に国民負担を減らすため、所得税の諸控除を整理して税制を簡素化し、必要なものは手当てに改め、税率を大幅に引下げるべきである。それによって消費という第三のエンジンに点火すれば、景気の失速は防がれ、税率は下がっても税収は増える結果となろう。
構造改革についても、整備新幹線や関空2期工事の着工を始めとする効率の悪い公共投資が増え、大都市圏の防災、環境、交通関係など効率性、採算性、収益性の高い公共事業が後回しになっている。また民間より三割も高い単価、補助事業に伴なう無駄な経費(中央省庁との折衝費)も放置されている。個別補助事業は廃止し、その補助金相当額を地方自治体(但し人口三十万人以上)に一括交付して投資計画を自主的に決められるようにすれば、公共事業費を二割削減しても事業量は十分確保できる。
財政赤字の削減は、構造改革に伴なうこのような歳出削減によって進めるべきである。平成十三年度予算案は、国債発行額が前年度当初予算に比して、四・二兆円減少するが、これは前年度までの金融システム対策四・五円が終わったからだ。これを調整すれば財政赤字は拡大している。現にプライマリー・バランスで計れば、五千億円の悪化である。