「日本一新」の処方箋 (『金融財政』2001.1.15)

二十世紀は、日本が欧米先進国に追い付くという明治維新以来の悲願を達成した世紀であった。しかし世紀末の九〇年代に入ると、先進国中最低の成長率となり、失業率は米英よりも高くなってしまった。停滞した経済を背景に社会も荒れ、凶悪犯罪が多発し、自殺者が増加している。
この経済停滞と社会不安の根本的原因は、70年代に欧米先進国に追い付いたにも拘らず、それ迄の「追い付き型システム」から脱却せずに今日に至ったからだ。輝かしい二十一世紀の日本を築くためには、何よりも先ず、官が民を指導し、中央が地方を支配するこれ迄の「追い付き型システム」を改革しなければならない。同時に、日本国憲法や教育基本法などの基本法も、改正すべきである。
規制撤廃によって官僚の仕事を減らし、ルールを守る限り民間は官僚の介入を受けず、自由に活動できるようにしなければならない。地方分権を進め、中央政府の仕事は司法、警察、外交、安全保障、基礎的社会保障、義務教育、基幹交通網などに限定すべきである。また市町村の合併を促進し、地方分権の受皿となる人口三〇〜四〇万人の市や区約三〇〇に再編し、地域の公共事業の決定、介護サービスの提供などを市や区が自主的に行うように改めるべきである。そのための財源として、現行の公共事業の補助金相当額を地方自治体に一括交付し、また地方独自税源を整備すべきだ。
以上によって中央政府が小さくなり、地方自治体が現在の三二〇〇から三〇〇程度になれば、中央・地方合わせた歳出総額一五〇兆円の一割(十五兆円)以上の削減は容易に実現するであろう。それを財源に更に一〇兆円程度の所得課税、法人課税の減税を実施し、努力した人が報われる社会にすべきである。
これによって、元気な民間市場経済と小さく効率的な中央・地方政府を作ることが、日本の構造改革、システム転換の基本でなければならない。そうすれば、財政刺激をしなくても民需主導型で経済は持続的に成長し、税収が増え、財政赤字は前述の行革効果とあいまって減って行く。その目標は、プライマリー・バランスの均衡を図ることに置くべきである。
憲法は主権在民、基本的人権の尊重、平和主義の三大原則を維持しながら、時代に合わせて改正すべきである。現行憲法には国家権力と基本的人権を対峙させる啓蒙時代のような書き方が見られるが、国民に対する基本的人権の保障は、現代日本の国家社会の安定と発展の公共的基盤でもある。両者は調和するもので、対立概念として規定すべきではない。
個人の権利は、他人の同様の権利を尊重する義務を伴うことによって、はじめて社会全体の秩序となり、国家社会発展の公共的基盤となるのだ。個人の権利ばかりを説いて他人への思いやりに触れない現行の教育基本法にも、このような国家社会との調和の重要性を書き加えるべきである。
そのような日本人の基本的人権を脅かし、生命、財産をも奪いかねない日本に対する侵略を阻止するために、日本が国防軍を持つのは当然である。それを憲法に明記すべきだ。しかし、このような「急迫不正の侵害」以外には、個別的であれ集団的であれ、自衛権の名の下に武力による威嚇またはその行使を行わないという現行の憲法の立場を護るべきである。日本の安全を守る道は、国連中心の平和維持活動を強化する以外にはないと思う。