景気と株価の乖離をどう見るか (『金融財政』2001.10.19)

九月調査の「日銀短観」によると、本年度中の景気回復持続は確実のようだ。ところが、日経平均株価は一万五千円台に低落している。この乖離をどう読んだらよいのか。
まず景気指標を確認しよう。九月調査の「日銀短観」の全規模全産業の本年度売上見通しは、三ヶ月前の六月調査に比べ、上期も下期も上方修正された。すなわち、前年同期比でみて、上期は〇・三%ポイント上方修正されて+二・六%、下期は〇・七%ポイント上方修正されて+三・一%である。売上げの伸びは下期に加速する形となっており、日銀短観から見る限り、年度内の景気に不安はない。
この結果、本年度の売上高経常利益率は、製造業においては大企業、中堅企業、中小企業のいずれの規模においても、景気後退前のピークを記録した九六年度の水準を上回る。また非製造業では、本年度の大企業の売上高経常利益率が九六年度の水準は勿論のこと、バブル景気中のピーク(八八年度)をも上回ると予想されている。企業収益は、業種別、企業規模別の格差を伴ないながら、二年連続で回復している。
このような回復過程の中で、企業は依然として雇用調整を進めている。九月調査の日銀短観によると、全規模全産業でみて、雇用人員判断DIは「過剰超」幅が一一%ポイントとなっており、本年六月現在の雇用者数は前年比マイナス〇・七%と減り続けている。
この企業経営の戦略が、景気の動きに二つの特色を生み出している。一つは、企業収益の回復に伴なう設備投資の立直りであり、もう一つは雇用・賃金の不振に伴なう個人消費の停滞である。九月調査の日銀短観によると、大企業製造業の本年度設備投資計画は、前年比+一三・八%の大幅増加である。また中堅企業と中小企業の製造業の計画は、三ヶ月前に比べて、夫々五・二%ポイントと七・一%ポイントの大幅上方修正となっている。
設備投資の先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)をみても、本年四〜六月期平均は前年比+二〇・二%の飛躍的伸びとなっている。七、八月平均の四〜六月平均比は更に+一〇・七%の大幅増加だ。このような機械受注統計の動きから判断すると、本年度の設備投資計画は更に上方修正されることとなろう。
以上のように、景気は資本分配率の上昇を背景に設備投資主導型で回復しているが、その弱点は労働分配率の低下に伴なう消費停滞である。それが景気回復の先行きに何となく不安を与えている。この先行き不安が株価低迷の原因であろうか。株式評論家の意見は違うようだ。株式持合いの解消売りと米国株価下落の影響で、日本の株価は景気と無関係に下落しているという。
確かに一日一日の動きとしては、その通りであろう。しかし、数ヶ月の動きを見る時は、株価が景気と無関係に動いていると考えることは出来ないのではないか。景気回復の持続で企業収益が来年も改善していくと考えるならば、収益の割引現在価値である株価の予想も上昇して行く。従って、持合い解消売りを急ぐのは損である。また米国株価の影響で値下がりした日本の株は、絶好の買い場の筈だ。
そうならないのは、やはり投資家が来年の日本経済を不安視しているからではないのか。個人消費から景気が崩れると見ているのか。設備投資の回復が続かないと見ているのか。あるいは財政再建最優先のHYKK(橋本、山崎、加藤、小泉)が天下を握ってデフレ的財政政策が強行されると恐れているのか。