「財政投融資制度の大改革」 (『金融財政』2000.4.26)

半世紀にわたって大きな役割を果たしてきた「財政投融資」の仕組みを抜本的に改める歴史的な改革法案が衆議院を通過し、この通常国会中に成立することが確実となった。
この改革のポイントは、これまで「入るを計りて出ずるを制する」制度であったものを、「出ずるを計りて入るを制する」制度に改めることにある。つまりこれ迄は、郵貯、簡保、年金の資金が資金運用部に預託され(入るを計る)、それを財投機関の投融資に回していたが(出ずるを制す)、改革後は、財投機関の投融資規模を政策的に決め(出ずるを計る)、それに必要な資金を財投債や財投機関債で調達する(入るを制す)。
従って、郵貯、簡保、年金の運用部に対する「預託」の制度そのものが廃止される。
「財政投融資」の仕組が、日本経済の発展にとって一定の役割を果たしたことは疑いない。しかし、この仕組が、自動的に肥大化し始めたのだ。それは郵便貯金、簡易保険、年金基金が著しい伸びを示し、財政投融資の規模が受動的に拡大したからである。
例えば、民間金融機関の預金と郵便局の貯金を合計した日本全国預貯金総額に占める郵便貯金のシェアは、昭和三十年代には一割にも満たなかったが、平成十一年現在では三分の一に達している。これがそのまま財投機関である公的金融機関の貸出シェアに反映し、昭和三十年代には一五%程度に過ぎなかった全国の貸出総額に占める公的金融機関の貸出シェアが、平成十一年現在では三九%にも達している。
公的金融は、民間金融の対象にはならないが、日本経済にとって大切な分野に融資するのがその役割である。そのような分野は、融資期間が非常に長いとか、信用リスクが高いとか、政策的な低利融資で採算に乗らないような分野である。電力、鋼鉄、造船のような基幹産業に対する長期融資、途上国向け輸出に対する金融、住宅ローンや中小企業融資などがその例だ。
しかし、このような分野は日本経済の発展や、コンピュータを駆使したリスク引き下げの技術などによって、減少することはあっても決して増加していない筈である。それにも拘らず、公的金融の融資シェアが拡大しているということは、民間金融の対象となる分野に公的金融が進出しているからである。これは「官業の民業圧迫」にほかならない。その根本的な原因は、急増する郵貯、簡保、年金の資金が自動的に資金運用部に預託され、公的金融の規模を拡大させるからである。
この度の大改革では、郵貯、簡保、年金は資金運用部資金への預託を廃止し、自主運用することになるので、それらの資金の伸びが自動的に財政投融資の伸びに反映されることはなくなる。「資金運用部資金」もなくなる。
代わって新たに作られる「財政融資資金」は、「財投債」という名の国債発行と政府内部の各種特別会計の余裕金を原資として、公的金融機関などの財投機関に融資する、
また、財投機関は自ら、「財投機関債」を発行して民間市場から資金を調達する。
そして、「財投資」と「財投機関債」の発行規模は、政策的に決まる「財政投融資」の規模を反映することになる。
以上の大改革は、財政投融資の自動的肥大化に伴う「官業の民業圧迫」や「財投機関の非効率化」を防ぐためであるが、新しい仕組の下で本当にそれが改まるか、また郵貯などの自主運用が安全確実に行われるか、国民は看視を怠ってはならないと思う。