外形標準の法人事業税 (『金融財政』2000.9.11)
企業は黒字であろうと赤字であろうと、地方公共団体の提供する公共サービスを受益して企業活動を営んでいる。従って、黒字や赤字に関係なく、人件費とか、付加価値とか、従業者数とかの外形標準を基準として、何%かの法人事業税を企業に対する「応益」課税として課するのは筋が通る。個人であれば、家計が黒字か赤字かに関係なく、所得基準で住民税を収めているのであるから、個人とのバランス上も当然である。
私自身は、政界入りをする前の平成八年十月まで政府税制調査会の特別委員をしていて、「外形標準の法人事業税を早く創設し、地方自治体の中心的税源にすべきである」と主張していた。従って、政府・自民党の動きが遅いのに業を煮やした石原知事が、地方税法を盾にとって、独自に外形標準の法人事業税構想を打ち出したのには、喝采を送りたい。方向性において正しく、「その意気やよし」である。
しかし、資金量五兆円以上の銀行のみを選び、企業一般を対象としなかった点には、大衆の感情に迎合するポピュリズムの匂いを感じる。確かに銀行の給料水準は高いし、貸し渋りをしているので、大衆の間では銀行の人気はよくない。その上、多額の公的資金の投入を受けている。しかしながら、だから特別に重税を課してもよいだろうというのは、大衆には受けがよくても、経済政策としては理屈にならない。また正しい政策なら恒久的に実施すべきであるのに、五年間の時限というのも、東京都の財政再建だけを考えたご都合主義の感じがする。
銀行に公的資金を投入しているのは、銀行経営を救うためではなく、破綻銀行の預金者保護と決済システム・金融システムという公共財を立て直すためだ。それを銀行だけがよい思いをしているという大衆迎合的な論理にすり替え、重税を課して、万一決済システム・金融システムの再建が遅れたらどうするのか。国民の利益に反するという意味で、天にツバすることにならないか。
ことここに至った以上、「慎太郎税」を批判したり、阻止したりしようとするのではなく、全国一律に企業一般を対象とする外形標準の法人事業税を早急に創設し、実施に移すべきである。その際は、地方税法の改正となるので、東京都もこれに従わざるを得なくなる。
企業一般を対象とするので、景気、とくに中小企業経営に悪影響が及ばないような配慮が必要である。一つの方法は、基礎年金・高齢者医療・介護の三つについて、保険料をゼロとして消費税方式に切り替える改革を実施し、その際ゼロとなる保険料の「企業主負担」と同額の法人事業税を導入することだ。
保険料の企業主負担は、人件費を外形標準とする法人事業税を課しているのと同じことである。それを正式の外形標準法人事業税に切り替えることには抵抗が少ないであろう。そして、その法人事業税を自治体の独自税源とする一方、地方交付税交付金を通じて地方自治体に回っている消費税の国税部分は、国にとどめ、前記の三つの社会保障費にあてるのである。そうすれば、地方自治体の独立性は高まり、消費税の福祉目的税化も進む。外形標準としては、理論的には付加価値が望ましいが、消費税との混同を避けるため、人件費を中心に若干の修正をほどこすのがよいであろう。社会保険料の企業主負担とおなじであるとの意識を企業に与えるためにも、人件費中心の方がよい。