財源は保険料か消費税か (『金融財政』1999.11.18)
明年四月から発足する介護制度の財源を、保険料に求めるか、消費税に求めるかを巡って政治的な対立が起っている。同じようなことは、本年の通常国会中にも起きた。基礎年金の財源を保険料に求めるか、消費税に求めるかの対立がそれである。
小渕総理の諮問機会である「経済戦略会議(樋口広太郎議長)」の答申や自由党の「日本再興へのシナリオ(基本政策)」では、基礎年金・介護・高齢者医療の財源は、保険料ではなく消費税に求めるべきだとしている。逆にいうと、社会保険制度になじむのは、年金保険の報酬比例部分(厚生年金などのいわゆる二階、三階部分)と、現役世代の医療保険の二つだという主張になる。
これに対して、基礎年金・介護・高齢者医療の三つを消費税方式に切り替えると、高齢化が進むにつれて消費税率が上がっていくので、絶対反対だという声もきこえてくる。
しかし、ここには一つの大きな誤解ないしは混乱があるように見える。
現在、高齢者に係わる基礎年金・介護・高齢者医療という三つの社会保障の総給付額は二五兆円であるが、高齢化が進むにつれて、二〇〇五年度には四〇兆円、二〇一〇年度には五五兆円という調子で増えてくる。これは財源を保険料にしようが消費税にしようが、同じことである。
従って問題は、保険料が上がるのと、消費税が上がるのと、どちらがまずいかという話である。消費税が上がるのはいやだという人は、保険料なら上がってもよいということを、本当に自覚しているのであろうか。
基礎年金と介護の保険料は、収入・消費・資産などの経済力とは関係なく、従って課税最低限以下で所得税を払っていない人も含め、一人いくらという頭割りで徴求する中世の人頭税のようなものである。これは極めて逆進的性格を持っている。また医療保険料は所得を賦課標準としているが、保険料は頭打ちなので、やはり逆進的である。
これに対して消費税は、所得よりも捕捉の容易な消費を賦課標準としているので、同じ金額を徴収する場合でも、保険料より簡素(低い行政コスト等)、合理的(捕捉率が高く効率的)かつ公平(経済力に対応、不正がしにくい)である。しかも保険料は、主として頭割りで現役世代中心に負担が懸るのに対し、消費税は消費額に応じて国民全員に懸る。
従って保険方式をやめて消費税方式に変えると、現役世代や低所得層に対する負担が減り、年齢を問わず高所得=高消費の層の負担が増える(なお企業には保険料負担担当の負担を別途求める)。
例えば夫婦子二人のサラリーマン(年収七〇〇万円、子供一人は大学生で基礎年金の保険料は親が負担)の場合、基礎年金・介護・高齢者医療の保険料は現行制度の下で年間約四〇万円である。これを消費税(現在五%)で払おうとすれば、年間八〇〇万円の消費をしなければならない。しかし所得が七〇〇万円であるから、八〇〇万円も消費する筈はない。つまりこの標準的な世帯は、保険方式より消費税方式の方が負担は少ないのである。
現行制度のままで行くと、基礎年金・介護・高齢者医療の保険料総額は現在の一四・八兆円から二〇〇五年度には二四・〇兆円、二〇一〇年度には三三・五兆円に上昇すると推計される。これを消費税に置き変えた場合、二〇一〇年度でも一〇%以下である。