経済戦略会議の答申は動き出した (『金融財政』1999.3.29)

少し前にGDP統計が改訂され、九五年度の実質成長率は三・〇%、九六年度は四・四%(歴年では実に五・一%)に上方修正された。日本経済は一〜二%しか成長出来ないなどと言っている人々は、何と説明するのであろうか。
この経済を九七年度にマイナス〇・四%成長、九八歴年にはマイナス二・八%成長に叩き落としたのは、九兆円の国民負担増と三兆円の公共投資削減を含む九七年度の超デフレ予算であり、人々の先行き感を悪化させた九七年十一月の財政構造改革法である。
九五〜九六年の日本経済の回復が、性急な財政再建最優先に耐えられる程確りしていると誤認した橋本政権と、その政策路線を支持した当時の自社さ三党の執行部、財界指導者、有識者、マスコミがこの政策の失敗に責任がある。この人々は、日本経済を戦後例を見ない未曽有の危機に陥れた責任者達である。その中の一部の政治家が、「財政赤字を憂える会」と稱するグループを作って、自自連立内閣の経済再生最優先を批判しようとしている。しかしこれらの人々は、去る二月二十六日に小渕総理に提出された経済戦略会議の最終答申をよく勉強して欲しいと思う。
そこでは、九九〜二〇〇〇年度の二年間をプラス成長転換と不良債権整理の集中期間と位置付け、財政赤字の拡大を許容せよと主張している。次に〇一〜〇二年度の二年間を財政政策の中立期(財政刺激策も財政赤字削減策も採らない。増減税なし、公共投資横這い)とし、民間支出主導型で潜在成長経路を歩む時期としている。実際はこの時期に税の自然増収が増えるので、政策的には増減税なしでも財政赤字は縮小し始める。その上で〇三〜〇八年度の六年間を財政再建期間とし、〇八年度迄に財政のプライマリー・バランスを均衡させよとしている。
この経済戦略会議の大切なポイントは、@金融問題を集中的に解決してプラス成長を確保し(第一期)、A財政政策の手助けなしの民間主導型の自律的成長路線を定着させ(第二期)、その上で、財政再建に取り掛かれと言っていることだ。橋本首相やその路線を支持した政界、財界、有識者、マスコミの人々は、この二点が財政再建を可能にする現実的な前提条件であることをよく認識して欲しいと思う。
さて、自自連立政権は、事実上、経済戦略会議提案の十カ年計画の第一期を歩み始めている。昨年夏の第一四三臨時国会で成立した金融再生法に基づいて日長銀と日債銀を公的管理の下に置き、金融再生勘定一八兆円を使って金融システム不安を起こすことなく破綻処理をしている。また同国会で成立した金融健全化法に基づいて主要十五行の不良債権処理と経営リストラを促進し、それらを前提条件として金融健全化勘定二五兆円から七・四五兆円を資本注入することとなった。
また自自合意に基づく信用保証協会の保証枠拡大(中小企業二〇兆円)が昨年十月から実施に移され、十月以降の保証実績は前年の二〜五倍、十二月以降の企業倒産は前年の三〜四割減となった。
このように、自自連立の下で金融危機の克服策は着実に進み始めた。実体経済面では、九・四兆円の直接税減税と一〇%の公共投資拡大がスタートした。これでもプラス成長転換が不確かなら、自自合意に基づく次の手が打たれる。外人投資家は、これらを総合判断して買出動に転じ、株価は国内の持合い解消売りをこなして上がり始めた。