国債管理政策とツイスト・オペ (『金融財政』1999.2.18)
昨年秋頃の〇・七%の長期市場金利は、長続きのしない異常な低水準であった。名目成長率の長期的な予想がこんなに低い筈はない。これは民間の金融不安で資金が長期国債市場に集中し(フライト・トゥ・クォリティ)、国債相場にバブルが発生したのだと思う。しかし、平成十一年度の積極予算が明らかになるにつれ、長期国債の大量発行と資金運用部の長期国債引受け減少で民間の国債需給が悪化するのではないかとの予想が生まれ、年末にはバブルが破裂した。これに伴ない、市場利回りは一・七〜一・八%程度となった。これは不況下で先行きの見通しが極端に悪化している現状では、比較的自然な水準であった。ところが今年に入って更に二・三〜二・四%に上昇した。
大不況で民間資金需要が沈静し、日銀の金融調節で金融市場が超緩和の状態にあるので、これはクラウディング・アウト(国債大量発行による資金需給逼迫)ではない。将来の長期国債大量発行によって、長期国債の需給が崩れるのではないかという「予想」が生まれ、値崩れ前に売ろうという思惑から長期国債が大量に売られて値崩れし、「現実」の長期市場金利が上昇したのである。一種の「合理的期待」だ。
短期市場金利がゼロ%台にとどまったまま長期市場金利のみが二%台に上昇したので、イールド・カーブは著しく立ってきた。
普通はこのような場合、短期金利と長期金利の間には金利裁定が働いて、長期金利が下がり、短期金利は上がる。その時日銀が金融調節で短期市場金利の上昇を押えれば、長期金利の下落だけが起きる。
この場合、もし長期金利が下がらないとすれば、二つのケースしか考えられない。一つは、近い将来景気好転で短期金利が政策的に引上げられるとの予想で、長期金利が上昇している場合である。しかし、これは現状ではあり得ない。
もう一つのケースは、短期市場と長期市場が分断され(セグメンティション)、金利裁定が働かない場合である。日本では銀行をはじめとする機関投資家が、短期市場で資金を調達し、長期市場に投資することが出来るので、構造的な市場分断はない。しかし長期国債大量発行に伴なう長期国債相場の値崩れを恐れて機関投資家が買向かわないとすれば、「値崩れ予想そのものを変える政策」を打つ必要があると思う。
一つは政府の国債管理政策である。今までのように十年物の長期国債を中心に国債発行をせず、もっと四年物、五年物、六年物の中期国債や一年物の短期国債(TB)の発行を増やし、十年物の長期国債発行を減らすことである。
もう一つは、日本銀行が長期国債の買オペと政府短期証券(FB)の売オペを同時に実施する形で、ツイスト・オペレーションをすることだ。長期国債の購入を増やしても、他方でFBを同額売っているのであるから、日銀の政府に対する信用供与が増える訳ではなく、財政節度が緩む懸念はない。しかも日銀引受けとは異なり、イニシアチブは政府の側にはなく、日銀の側にある。また四月から入札発行されるFBを、地ならしの意味で売出し、市場を拡大しておくのも悪くない。
国会で国債管理政策とツイスト・オペの議論が始っただけで、市場の「予想」が早くも変化し、長期国債市場利回りは二月九日に二%を割った。実際に国債管理政策とツイスト・オペを実施すれば、長期市場金利低下の効果はもっとはっきり現れるであろう。