来年度予算、税制改正案の性格 (『金融財政』1999.1.11)

平成十一年度の予算案と税制改正案に対して、株式市場は極めて冷淡な反応しか示していない。しかし、これはかなりの大型予算であり、また懸案の税制改正も数多く実現している。
まず公共事業費は、前年度当初予算比一〇・五%増である。第三次補正後の前年度予算に比べればマイナスであるが、実際には前年度補正予算のかなりの支出が十一年度にズレ込む見込みである。第一次補正の支出は、昨年九月から始ったばかりで、計上した二・五兆円のうち〇・九兆円は十一年度にズレ込む見込みだ。ましてや第三次補正の二・七兆円の大部分二・三兆円は十一年度にズレ込む予想である。
その上、自・自協議の結果、公共事業予備費五千億円が追加され、景気浮場が不十分な時は補正予算を組むことなく、この予備費を整備新幹線、中部国際空港、関空二期等に追加して、工事を加速することになっている。
従って、十一年度の支出ベースの公共事業費は、前年度比一五%増、予備費を使えば二〇%増となるであろう。しかも十一年度上期中は十年度の第一次と第三次の補正ズレ込みが中心となり、十一年度当初予算の本格的支出は夏以降、予備費の支出は下期となる。このため、民間調査機関の一部にある「十一年度下期息切れ説」は当たらない。
次に税制改革を見ると、九〇年代始め頃から筆者自身を含む多くのエコノミスとが主張してきたいくつかの改革が、ようやく実現している。
個人については、所得税・住民税の最高限界税率が六五%から五〇%に引下げられ、法人については、実効税率が国際標準並みの四〇%に引下げられた。これによって個人の勤労意欲と法人の投資意欲は刺激され、海外脱出や脱税の誘因は低下する筈だ。これはサプライサイドの強化に貢献する。
また、諸外国にはほとんど例のない有価証券取引税と取引所税が遂に廃止される。これによって、国際的に割高となっていた日本の証券市場の取引コストが下がる。更に、FB(政府短期証券)の償還差益に係る源泉徴収が免除される。その上、低金利に固定され、事実上日銀引受で発行されていたFBが、自由金利の公募入札に変わる。これで数十兆円規模のFB市場が誕生することは間違いない。
これらの税制改革は、日本の金融・資本市場の空洞化を防ぐばかりではなく、アジア諸国などの外貨の円建て運用を便利かつ低コストにして、円の国際化を促進する。これも日本経済にとっては、サプライサイドの強化である。
このほか、株式交換方式による純粋持株会社の創設、連結納税制度の導入など、革新的な新規分野の分社化を容易にし、あるいは企業グループのリストラを援ける税制改正もある。これもサプライサイドの強化だ。
以上のような十一年度の予算と税制改正に対して、市場の反応が冷たい理由はいくつか考えられる。まず公共投資の二倍の規模を持つ設備投資が急落しているので、公共投資が二〇%増えても相殺されてしまう。また失業増加・ボーナス減・時間外削減で個人所得が減少し、需給悪化で企業収益が赤字化しているので、直接税減税の効果も相殺されてしまう。サプライサイドの強化も構造的な改革なので、景気に対して速効性がない。
これらの評価は、短期的な判断としては正しい。しかし長期的、構造的にみると、景気がひと度底入れした時には、回復を加速させ、また経済体質を改善する効果を発揮するであろう。