日銀の新しい信用供与方式 (『金融財政』1998.11.26)

日本銀行は、年末および年度末の企業金融を支援するため、新たに三つの日銀信用供与方式を打出した。日銀が如何に深刻な危機感を抱いているかが分かる。
第1は、来年4月までの臨時的な措置として、本年9月末に比べて貸出を増やした銀行に対しては、貸出増加額の50%に相当する資金を公定歩合の0.5%で日銀が貸出す。
第2は、日銀のCP買オペの対象を、従来の期間「3ヵ月以内」から「1年以内」に拡大する。
第3は、社債や証書貸付債権を担保として銀行が振り出す手形を、日銀が買オペする。
第一の臨時貸出し方式は、採算と流動性の両面から銀行に貸出増加の誘因を与える。現在のマネーマーケットでは、期間1ヵ月以内のコール・手形レートは公定歩合の0.5%を下回っているが、期間2ヵ月以上の資金は公定歩合の0.5%を上回っている。従って、この方式によって期間2ヵ月以上の日銀貸出を受けることは、銀行にとってコスト面で有利である。また貸出増加資金の50%が日銀貸出によって流動化することは、銀行自身の流動性維持の面からみても有利である。
ただし、企業の業績に問題があって、貸出が不良債権化する危険性が高ければ、実行されないであろう。その意味で、抜本的な景気対策が打たれない限り、この貸出し方式の効果にも大きな限界がある。
次に第2のCPオペの拡大は、日銀適格の優良企業が振出したCPでも、期間が3ヵ月を超えているために買オペ対象とならないCPが、この新方式によって流動化する。その限りで、企業金融の支援に役立つ。
しかし、長期CPを振出せる優良企業の資金繰支援と銀行の流動性維持には役立つが、業績の厳しい企業やCPを発行できない一般の中堅・中小企業の年末、年度末金融には直接役立たない。
最後に第3の社債等担保買オペ方式は、従来日銀信用を受ける際の担保適格性を備えていながら、役に立っていなかった社債等が、日銀信用供与の手段に使われることによって流動性をもつようになる。この点で、社債発行や証書借入を通じて企業金融を援け、また銀行の流動性を高める効果がある。
ただこの場合も、この恩恵に浴せる企業は日銀担保適格性を有する大企業に限られるという意味で、効果は限定的である。
以上の三つの新方式のうち、買オペ対象CPの期間延長を除くと、日銀信用供与の適格条件を緩和した訳ではないので、これによって直ちに日銀の資産内容が大きく悪化するとは言えない。しかし、長期のCPとか、ロットの小さな社債とか、貸付証書とか、従来に比べれば、流動性の低い資産が日銀のポートフォリオや担保に入ることは間違いない。
従って日本銀行は、市場の誤解を避けるため、資産や担保の内容を種類別に(個別企業名は不必要)分かり易く開示し、問題視される程の資産内容悪化ではないことを、積極的に市場に示すべきであろう。
この三つの新たな日銀信用供与方式によって、銀行は低利の公定歩合で鞘をかせいで儲ける機会や、社債などの保有資産を容易に流動化する機会を与えられることになる。これに甘えて、銀行の経営姿勢が安易に流れるなどモラルハザードが発生しないよう、日本銀行は十分に看視しなければならない。