金融再生と金融健全化の違い (『金融財政』1998.10.19)

「金融再生法」が、十月十二日(月)に成立した。これは、破綻金融機関の処理に関するスキームである。政府・自民党は自から提出したブリッジバンク法案を取下げ、野党三会派提出の四法案にブリッジバンク方式を付け加えるなどの修正をほどこし、成立させた。いわゆる「野党案丸呑み」である。
金融危機深刻化の折柄、野党はいつ迄も抵抗せず、さっさと政府・自民党案を通せという社説を書いた大新聞が二社あった。しかし、どうせ「野党案丸呑み」なら、政府・自民党が始めからそうすれば一ヵ月もかからなかったのだ。大銀行の破綻を処理できない政府・自民党のブリッジバンク法案よりも、野党三会派の四法案の方が包括的なスキームである。それを認めるのが遅かった点では二大新聞も同罪であり、それこそが一ヵ月もかかった理由である。
修正案を作る過程で、政府・自民党は巧みに換骨奪胎を試みた。その最たるものは、預金保険法上の破綻宣告なしに長銀の株式を国有化して公的管理の下に置き、公的資金を使って不良債権を整理回収機構に移し、きれいになった長銀の株式を民間に売却して公的管理を了える、というスキームを忍び込ませたことだ。
これに気付いた自由党は、これでは公的資金による長銀の経営救済だとして反対し、野党三会派から離脱し、修正部分に対してのみ反対、オリジナルな野党三会派四法案には賛成した。
次に出てきたのは、「金融健全化法」案である。似たような名前であり、「再生」と「健全化」とどう違うのか、国民には分かり難い。しかし、本来の狙いはまったく違うのである。
再生法は、破綻金融機関の処理という後ろ向きのスキームである。これに対して健全化法は破綻していない金融機関の不良債権を一挙に引当て償却し、これに伴なって減少した自己資本を所要水準に回復させるために公的資金を融資し、経営健全化の後に回収しようという前向きのスキームである。
再生法案では民主党に引きずり回されてこりごりした政府・自民党が、健全化法案では民主党以外の主な野党と水面下で意見を交換し、自民党議員の議員立法という形で出してきた。 早期健全化スキームは絶対に必要であるが、この法案のままでは護送船団方式の裁量行政に逆戻りしてしまうというのが野党の判断であった。そこで自由党、平和・改革が水面下で接触を続け、野党の意見を更にとり入れて修正し、会期内成立の目途が立った。この原稿が読者の目に触れる頃には決着しているだろう。
不良債権問題が日本経済の足枷になっていると言う場合、破綻金融機関の不良債権処理はその極く一部である。大きな問題は、生きている金融機関が不良債権を抱えているため、積極的な融資活動を展開することが出来ず、企業などの経済活動を支援出来ないと言うことだ。
従って生きている金融機関の不良債権の一挙償却、資本増強、経営リストラは、日本の金融システムを再び活性化し、日本経済を立ち直らせるために不可欠である。修正法案では、不良債権の一挙償却が大前提と修正され、その結果過少資本となった金融機関に資本投入することとし、その際の経営改善などの具体的取り扱いも法案に書き込まれた。個別の経営救済ではなく、システム健全化策であるという考え方がこれでかなりはっきりした。自由党、平和・改革などはこれを一定の前進と評価し、金融危機対応の緊急性を考え、賛成に回った。このスキームが機能することを強く期待している。