長銀問題に対する国民の疑問 (『金融財政』1998.9.7)

日本長期信用銀行(以下「長銀」)の経営再建問題が、臨時国会の焦点の一つとなっている。一私企業の経営再建問題がこれだけ大きく取上げられるのは、公的資金で長銀の経営を救済しないと、金融のシステミック・リスクが表面化すると首相や蔵相が国会で答弁しているからだ。
国民の目から見ると、長銀問題には少なくとも四つの疑問点がある。
第一に、長銀が公的資本注入を希望していると言われる五千億円超と、長銀が債権放棄しようとしている日本リースなど三社に対する貸出五千二百億円がほぼ見合っていることだ。しかも日本リースなど三社は、この債務免除によって経営再建を計るという。そうだとすれば、公的資金で日本リースなどのノンバンク三社の経営を救済することになる。
国民の疑問は、預金を取り扱わないノンバンクの経営を、どうして国民の血税で救うのかという点にある。住専も日貿信も、経営破綻したノンバンクはすべて清算ないし自力再建したではないか。どうして日本リースなど三社だけが例外なのか。
この疑問に対する本当の答えは、日本リースなど三社に多額の融資を行っている農林系統金融機関を救済するためではないのか。住専処理に投入した六八五〇億円の公的資金は、実際は住専に融資していた農林系統金融機関を救済するためであったと、宮沢蔵相は今国会で白状した。しかし今回の公的資金投入については、同じ目的だと白状するには早過ぎるのか。
第二に金融安定化措置法によれば、公的資本注入が許されるのは、経営が著しく悪化している金融機関ではない場合と明記されているが、長銀は本当に債務超過ではないのか。系列ペーパーカンパニーに飛ばした不良債権を含めると、どうなるのか。
第三に、長銀が破綻すると内外の金融市場に大波乱が起きると政府は言うが、本当か。長銀は国際金融市場では信用を失っているので、デリバティブを含め、誰にも貸してもらえず、大きな国際的債務はもう無いのではないか。国内の債権者のうち預金者と金融債保有者は預金保険でカバーされている。破綻が表面化した時、日本銀行が間髪を入れず特融(無担保)を実施して支払不能を回避すれば、システミック・リスクは表面化しないのではないか。
システミック・リスクさえ回避できれば、あとは時間をかけて資産を整理し、預金保険を受取り、特融をはじめとする債務を返済することになるが、債務超過分は株主や劣後債権者が負担することになろう。
このような形で長銀を清算できない本当の理由は、劣後債権者の中に生命保険会社が居るからではないのか。長銀に対する劣後ローンは、数年前に大蔵省が指導した結果、経営不振の生保がかなり持っている。
第四に、ブリッジバンク法案が成立していないので、長銀が破綻すると借り手企業が困るというが、借り手はほとんど大企業であるから健全な企業は他行へ移れる。健全な中小企業も居るならば、信用保証協会の保証を拡充して移れるようにすればよい。ブリッジバンク法を適用すると、不健全な企業ばかりが残り、そこに公的資金をズルズル入れることにならないか。
以上の四つの疑問に対して、政府は情報を開示して回答すべきである。長銀の破綻で農協や生保が困るのならば、農協貯金の保険基金や生保の保証基金にこそ公的資金を入れるべきであり、農協や生保の経営救済に公的資金を回すべきではない。