現状は政策不況 (『金融財政』1997.10.20)
最近1年間程の株価の動きは、日本経済の現状が「政策不況」であることを如実に
物語っていると言えよう。
昨年6月に日経平均が25千円台をピークに下落に転じたのは、政府が本年度からの消費税率の2%引上げ(5兆円増税)を決定したのが切掛けであった。また昨年末に9兆円の国民負担増加と公共投資の削減を含む本年度のデフレ予算案を政府が決めたあと、株価は更に下がって本年1月10日に日経平均で17,308円を記録した。
その後、消費税引上げ前の駆け込み需要で強めの景気指標が次々と発表され、また日債銀や拓銀の再建計画が発表されて金融危機が去ったような雰囲気になったため、日経平均は年央にかけて一時2万円台まで回復した。しかしその時点で、実は足元の景気は崩れていたのである。4〜6月の実質GDPは、前期比年率で11.2%も落込んでいた。
私は6月5日(木)のこの欄で、「96年度成長率が3%程度に達しそうなので、日本経済は長いトンネルを抜け出たように見えるかもしれないが、この3%成長には持続性がない。4月以降の弱い指標が出揃い、とくに4〜6月のGDPが発表になる9月頃にはそれが分かる」と書いた。
案の定、4月以降の弱い指標が出揃った現在、株価は再び下落し、1月10日の本年最安値を更新した。株価の一時的回復は糠喜びであり、やはり97年度デフレ予算の影響は深刻であることを市場は再確認したのである。6月5日付の本欄で既に指摘しておいた通り、9兆円(国民所得の2.3%)の国民負担増加と公共投資の減少傾向に景気は耐えられなくなったのだ。
これは「政策不況」以外の何物でもない。いま民間調査機関は一斉に経済見通しを下方修正しており、手許にある13機関の平均では、本年度の成長率は僅か0.6%である。マイナス成長の予測も2機関ある。また来年度は、現在の景気を支える2本柱、即ち設備投資と純輸出が鈍化し、財政構造改革法案に従って公共投資も減少を続けるので、9兆円の国民負担増加の悪影響が減衰するとしても、1%台成長がやっとであろう。
これは立派な景気後退である。現在既に7〜8%のデフレ・ギャップがある状態から更に景気が落ちて行くのであるから、失業問題の深刻化、企業倒産の多発、株価の暴落、金融機関の破綻と金融システム危機の発生、超低金利の際限ない持続による金利生活者の困窮や年金基金の破綻など、さまざまの経済危機が発生するであろう。
「政策不況」は政策で阻止しなければならない。これも6月5日の本欄で述べたように、対策の中心は法人税減税である。それも政府が言うような課税ベース拡大に伴う増税の範囲内の減税では、効果がない。課税ベースの拡大はよいが、同時に基本税率の5%引下げ、連結納税制度の導入等で、法人課税の実行税率を10%(4兆円)引下げる程度の純減税が必要である。
10月20日に発表される予定の政府の景気対策が、増減税同額の法人税改革や規制緩和、土地流動化などの「構造」対策ばかりで、政策不況を阻止する「循環」対策を欠いていると、市場の政策不信は更に高まるのではないか。