成長鈍化と政治の判断 (『金融財政』1997.6.5)
日本経済は1996暦年に3.6%成長した後、今年の3月に終わった96年度も、政府の実績見込みの2.5%を大きく上回り、3%程度の成長率に達したようだ。3%成長は、91暦年以来5年ぶりのことなので、海外から見ると、日本経済がようやく長いトンネルから抜け出したように見えるらしい。海外の友人からは、しきりとそれを確かめてくる。橋本政権もすっかりその気になっているようだ。
しかし、残念ながらこの3%成長には持続性がない。
第1に、95年度の大型景気対策の余波で、公共投資は96暦年上期まで急増したが、下期以降は息切れを起こし減少している。
第2に、公共投資に代って下期以降の成長を支えてきた純輸出の増加には、米国から厳しい警告が寄せられている。困った政府は口先介入で円高投機に火をつけて、何とか115円前後に誘導した。これで対外黒字の拡大が抑えられるとは思えないが、いつまでも外需依存型の成長を続けられないことは明らかだ。
第3に、これとの関連で景気を支えてきた超低金利政策の持続性にも限界が見えてきた。超低金利を是正しない限り、円高傾向を定着させることは出来ないからだ。市場は早くもその事を予測し、長期金利が上昇している。超低金利に依存してきた成長にも先が見えてきた。
第4に、消費税引き上げ前の駆け込み需要で住宅投資と個人投資が急増したが、その反動で今両者とも急減している。駆け込み需要で予想外に減少した在庫の補充で、生産活動の落ち込みは小幅だが、在庫投資一巡後はもっと落ちるだろう。
最後に97年度予算の国民負担増加9兆円の影響が、これからずっしりと響いてくる。このところ名目国民所得は2%程度しか増えていないが、9兆円は名目国民所得の2.3%である。駆け込み需要の反動が一巡した後も、このデフレ効果は残る。むしろ6月から特別減税打ち切りの影響が本格的に出てくるだろう。以上、少なくとも5つの理由で3%成長に持続性はないが、その事が海外の人や橋本政権の目にもはっきりしてくるのは、夏以降であろう。なぜなら4月以降の弱い指標が出そろってくるのは6月以降、日銀短観の発表も6月、4〜6月のマイナス成長のGDPが発表されるのは9月だからである。
そうなると、6〜8月に行われる来年度予算の概算要求は、3%成長の余韻の中で、安心して厳しく査定されるだろう。その結果、来年度の大幅な歳出削減が決まるところに、次々と弱い景気指標が出てくるという回り合わせになる。橋本政権は、その時どうするだろうか。口先だけの改革ではないことを示すには、財政構造改革に伴う大幅な歳出削減を、今度こそ決定してみせなければ国民の支持が落ちる。しかし、それが景気の先行き不安を拍車して株価や地価が下落し、金融不安が出たりすると、これも困ったことになる。9月の自民党総裁再選をかけた橋本総理は、ここでどう出るだろうか。
行財政改革に伴う歳出削減は、日本の為にぜひともやり遂げなければならない。そうなると対策は、新進党が主張している法人税減税しかないと思う。それで赤字が一時的に増えても、設備投資主導型の持続的成長軌道に乗れば、中期的な財政再建は進む。果たして自民党が社民党と離れ、新進党と政策協定を結ぶ気になるだろうか。政治にとって暑い夏になる。