危機管理能力を示した民主党


―今回の代表選挙に思う(H21.5.16)

【代表選は小沢戦略を巡る争いではなかった】
 民主党の小沢代表が辞任し、後継に鳩山新代表(前幹事長)が本日(5/16)の両院議員総会で選出された。
 当初、朝日新聞を先頭に、マスコミは親小沢対反小沢の対立、あるいは小沢傀儡対脱小沢の選択などと書き立てたが、鳩山・岡田の公開対論(昨日の日本記者クラブ、本日の議員総会)をTV中継で観た国民は、小沢前代表の路線を巡る対立ではなく、どちらが党の結束を強化して総選挙で勝利し、政権交替を実現するのに適しているかの争いであることがよく分かったと思う。
 もともと鳩山・岡田の両氏は、98年の民主党結成以来、共に民主党の政策を10年かかって練り上げてきた中心人物であるから、政策に基本的な違いがある筈はない。

【どちらが総選挙に勝利するのに適しているかの争いだった】
 また小沢前代表の辞任は、党の運営に間違いがあったり、党内で政策路線が対立したりして辞めた訳ではない。むしろ逆で、小沢前代表の党運営によって、議論が多くて行動力を欠く嫌いのあった「生徒会」、「学級会」のような民主党を、いろいろな事を確り決め、結束して前向きの行動に移す闘う政治集団に変え、07年の参議院選挙に勝利したことを、現在の民主党の議員、党員、サポーター達はよく認識している。
 だから、始めからマスコミが煽ったような小沢路線を巡る対立である筈はなかったのだ。むしろ鳩山氏も岡田氏も、成功してきた小沢路線を継承することが、政権交替への道であることをよく認識している。「私(小沢代表)自身が身を引くことにより、民主党の挙党一致の態勢がより強固になり、総選挙で勝利して政権交替を実現することが出来るならば」と言う小沢前代表の辞任の辯は、議員達の心に響いたのではないか。彼等は、鳩山・岡田両氏のうち、どちらが党の結束を強化して小沢路線を続け、総選挙を勝利に導くのに適しているかを考えて、投票したと思う。その結果、幹事長として党内の融和に心掛け、小沢代表を支えてきた鳩山氏が選ばれたのは、ごく自然な流れである。選挙の「顔」に適しているとして岡田氏を選び、党内の結束が乱れてしまっては元も子もない。

【大久保秘書の政治資金規正法違反容疑とは】
 では、何故小沢前代表が身を引く方が、党の結束が強まるのか。それは、今回の大久保秘書の政治資金規正法違反容疑事件によって、小沢前代表自身と民主党に対する国民の支持率が下がってきたため、党内の意見が小沢代表の続投と辞任に分かれてしまったからだ。
 国民は愚かではないから、小沢代表の公設第1秘書、大久保隆規氏の起訴事実が、政治資金規正法の「虚偽記載」だけであることを知っている。
 政治資金規正法は、政治献金の「寄付行為者」を収支報告書に記載せよと書いてあるだけで、「資金の拠出者」を書けとは書いてない。「寄付行為者」の背後関係を調べて「資金の拠出者」が誰かを書かなくても、違反ではないのだ。従って大久保氏は「虚偽記載」を認めず、無罪を主張している。
 大久保氏は、寄付行為者である二つの実在する政治資金管理団体(新政治研、未来研)の名前を記したのに対して、検察側はその金の出所は西松建設なので、西松建設と書かなかったのは「虚偽記載」だとして起訴した。この認識の違いは、裁判で最後まで争われるであろう。
 従来は、このような認識の違いによる一種の形式犯である「虚偽記載」は、収支報告書の書き直しを命じるだけで処理していた。それを今回はいきなり大久保氏を逮捕し、小沢事務所の家宅捜査まで行った。
 恐らく検察は、家宅捜査によって、「収賄」や「斡旋利得」の証拠をつかもうとしたのかも知れない。しかし、空振りに終わったので、「虚偽記載」だけで起訴した。裁判で新たな証拠が出てこなければ、検察側敗訴の可能性もある。

【検察の不当な政治介入を国民は分かっている】
 検察の不公平な政治介入は、国民の目から見て歴然としている。
 収支報告書に西松建設と書かず、二つの政治資金管理団体の名を記した政治団体は、小沢氏の政治団体以外にも、自民党の二階俊博、尾身幸次、森喜朗など10氏以上の政治団体が在ることを、国民は新聞報道で知っている。その中には、野党の小沢氏と異なり、職務権限を持っているため「収賄」や「斡旋利得」の疑いがあるのではないかと思われる人もいる。それなのに、小沢氏の会計責任者だけ逮捕、起訴して、他の人々の会計責任者を「虚偽記載」で捜査も逮捕も起訴もしないのは、不公平ではないかと思っている国民は少なくない。
 結局、総選挙の直前に、野党代表の会計責任者だけを逮捕、拘留、起訴したのは、検察の露骨な政治介入であり、民主政治の根幹である国民の選挙の判断に対する不当干渉ではないか、と感じている国民は多い。

【国民の「金権政治」に対する嫌悪感が民主党を動かした】
 国民の多数は、今回の検察の問題点をここ迄知っていながら、なお世論調査では小沢氏の代表辞任を求める声が強かった。
 それは、たとえ合法であっても、たとえ裁判で最終的に大久保氏が無罪になる可能性があっても、西松建設というゼネコンから多額の政治献金を受けていたこと自体に古い「金権政治」の臭いを感じ、嫌悪感を抱いたからではないだろうか。
 小沢氏に「収賄」や「斡旋利得」の疑いがないという事実は、小沢氏自身、かつての古い自民党の「金権政治」から決別して歩いている証拠であるが、国民の感情は理屈通りには動かない。
 しかし、このような国民の「金権政治に対する嫌悪感」は、日本の民主主義に対する健全な支えである。今後、政治資金規正法の改正で企業・団体献金を禁止し、日本の政治を浄化していく上で、このような国民の感性は大切にしなければならない。政権交替後の民主党の政治改革にとっても、有力な支援勢力となるに違いない。

【民主党は見事に危機管理能力を示した】
 この小論を執筆している時点で、新しい鳩山民主党の幹部人事はまだ分からないが、公開討論の席上で鳩山氏が述べていたことから推察すれば、岡田氏が幹事長など重要ポストに着き、小沢、菅両氏と共に新トロイカ体制で党内の結束を固め、総選挙の勝利、政権交替の実現に邁進して行くのではないかと思う。
 当面の経済情勢は厳しいが、21年度補正予算のような一時的なバラ撒きではなく、民主党はこの国の将来像を明らかにし、景気対策はそこに向かう長期行動計画の前倒し執行と位置付け、マニフェストで国民に訴えて欲しい(このHP<論文・講演>「新聞」“長期ビジョンに立った景気対策を―本年度景気対策の問題点”<『世界日報』2009年5月12日号>参照)。そうすれば、総選挙で必ず勝利することが出来るであろう。
 今回の代表選のプロセスと結果を見ると、結果的にメディア・ジャックをして党の政策と結束を国民に訴える形となった。小沢代表辞任という最大のピンチに際し、民主党は見事に危機管理能力を示し、総選挙に勝てる体制を整えたといえよう。これは将に、「禍を転じて福と成した」といっても過言ではあるまい。